共済掛金の処理で迷う事業主は多い
事業を営むうえで「共済制度」を活用する方は少なくありません。小規模企業共済や経営セーフティ共済(倒産防止共済)などは、税制面の優遇や将来への備えとして広く利用されています。
しかし、実際に共済掛金を支払ったときに「どの勘定科目で処理すべきか」「仕訳をどう切ればいいのか」で悩むケースは多くあります。特に個人事業主の場合、掛金の一部は必要経費にできるものと、できないものがあり、その判断を誤ると税務調査で否認されるリスクもあります。
共済の掛金処理は「節税効果」と「資金繰り管理」の両面で重要です。正しく記帳できれば安心して制度を活用できる一方、誤った仕訳は後々のトラブルにつながりかねません。
そこで本記事では、共済掛金の記帳・仕訳方法をやさしく整理し、制度別に具体例を交えて解説します。
共済掛金を処理する際のよくある疑問
共済掛金の処理について、事業主や経理担当者からよく挙がる疑問には以下のようなものがあります。
- 小規模企業共済の掛金は全額経費になるのか?
- 経営セーフティ共済の掛金はどの勘定科目で仕訳する?
- 個人事業主と法人で仕訳方法は違う?
- 共済の解約返戻金を受け取ったときはどう仕訳すればいい?
- 仕訳を間違えると税務調査で不利になる?
これらの疑問に答えるには、まず「制度ごとの性質」と「税務上の扱い」を正しく理解することが欠かせません。
共済掛金の仕訳はシンプルに整理できる
結論から言うと、共済掛金の仕訳は制度ごとに整理すれば難しくありません。
大きく分けると以下のルールで考えることができます。
- 小規模企業共済掛金
→ 個人事業主は「必要経費」ではなく「所得控除」。帳簿には経費計上せず、確定申告時に所得控除欄で処理する。
→ 法人は加入不可。 - 経営セーフティ共済(倒産防止共済)掛金
→ 個人事業主・法人ともに「必要経費」「損金」として処理できる。
→ 勘定科目は「租税公課」または「保険料」「共済掛金」などが一般的。 - 中小企業退職金共済(中退共)掛金
→ 法人・個人事業主ともに「福利厚生費」で処理。
このように「控除扱いか」「経費計上できるか」で明確に仕訳方針が分かれます。
次章からは、それぞれの制度について理由や仕訳例を詳しく解説していきます。
小規模企業共済の記帳・仕訳方法
小規模企業共済の特徴
小規模企業共済は、個人事業主や小規模会社の役員が退職金を積み立てるための制度です。掛金は月額1,000円~7万円まで自由に設定でき、全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象になります。
記帳・仕訳の注意点
小規模企業共済の掛金は「経費」ではなく「所得控除」です。そのため、日々の仕訳に経費計上する必要はありません。
つまり、帳簿上は「事業主貸」などで処理し、確定申告時に所得控除として控除額を反映させます。
仕訳例(個人事業主が口座振替で掛金を支払った場合)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 事業主貸 | 20,000円 | 普通預金 | 20,000円 |
このように「事業主貸」で処理することで、経費とは切り離して管理できます。
よくある誤り
- 経費勘定(「福利厚生費」や「保険料」など)で仕訳してしまう
- 法人が加入できると誤解して経費にしてしまう
これらの誤りは税務上否認される可能性が高いため注意が必要です。
経営セーフティ共済(倒産防止共済)の記帳・仕訳方法
制度の特徴
経営セーフティ共済は、取引先が倒産したときの連鎖倒産を防ぐために、中小企業基盤整備機構が運営する制度です。掛金は月5,000円~20万円まで、最高800万円まで積み立てることができます。
税務上は「必要経費(個人)」または「損金(法人)」として計上でき、節税効果が高いのが大きなメリットです。
勘定科目の選び方
一般的には以下のような勘定科目で処理されます。
- 租税公課(最も多い処理方法)
- 保険料
- 共済掛金(補助科目として独自設定するケースもあり)
仕訳例(法人が掛金を口座振替で支払った場合)
| 借方 | 金額 | 貸方 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 租税公課 | 100,000円 | 普通預金 | 100,000円 |
このように経費計上できるため、法人税の節税にも直結します。
経理処理における共済掛金の注意点
共済掛金は経費計上できる一方で、処理を誤ると節税効果を十分に享受できないことがあります。ここでは、よくある注意点を整理します。
個人事業主と法人で仕訳が異なる
- 個人事業主の場合
掛金を「事業主貸」で処理するのが一般的です。実際には個人が加入者となるため、事業経費ではなく「所得控除」として確定申告で調整します。仕訳上は経費として計上しません。 - 法人の場合
法人が契約者・掛金負担者となる場合は、損金算入できます。仕訳では「共済掛金」や「保険料」として費用計上します。
所得控除と損金算入の違い
- 所得控除 … 課税所得から差し引かれるため、個人の税率に応じて節税効果が変わる。
- 損金算入 … 法人の利益計算上の費用となり、法人税の計算に直接影響する。
同じ「節税」でも、税務処理の仕組みが異なるため、勘違いしないようにしましょう。
具体的な記帳・仕訳例
実際の帳簿での処理をイメージしやすいように、具体例を挙げてみます。
小規模企業共済(個人事業主)
- 毎月3万円を口座振替で支払った場合
(借方)事業主貸 30,000 /(貸方)普通預金 30,000
このように仕訳を切ります。経費ではなく「事業主貸」で処理することに注意が必要です。確定申告時に「小規模企業共済等掛金控除」として申告する流れになります。
経営セーフティ共済(法人)
- 毎月5万円を口座振替で支払った場合
(借方)共済掛金 50,000 /(貸方)普通預金 50,000
法人の場合は費用科目を設定して損金算入します。仕訳上も費用処理が基本です。
年払いした場合
年払いで一括支払うことも可能です。例えば60万円をまとめて支払った場合、原則として一括で費用計上しますが、決算期をまたぐ場合は「前払費用」として処理するケースもあります。
税務上の取扱いと留意点
共済掛金の税務処理はシンプルに見えて、実は細かいルールが存在します。
小規模企業共済の控除上限
- 月額1,000円〜7万円の範囲で任意に設定可能
- 年間最大84万円までが所得控除対象
- 控除しきれない部分は翌年以降へ繰越できないため、無駄のない掛金設定が大切です
経営セーフティ共済の損金算入上限
- 掛金総額の上限は800万円
- 年間240万円まで(20万円×12ヶ月)の掛金を損金に算入可能
- 解約返戻金を受け取った場合は「益金算入」として課税対象となるため、解約タイミングに注意が必要です
消費税の取扱い
共済掛金は「消費税非課税取引」にあたります。仕訳上、消費税区分を「対象外」として処理しておくのが適切です。
ケーススタディ:間違いやすい処理パターン
ケース1:個人事業主が経費にしてしまう
個人事業主が小規模企業共済の掛金を「保険料」などで経費計上してしまうケースがあります。しかしこれは誤りです。必ず「事業主貸」で処理し、確定申告で控除を反映させましょう。
ケース2:法人が資産計上してしまう
法人で経営セーフティ共済の掛金を「投資」と考え資産計上するのも誤りです。税務上は支払時点で損金算入できるため、正しく費用処理することが必要です。
ケース3:解約返戻金の処理を誤る
解約時に受け取った返戻金を雑収入ではなく、誤って「資本取引」として処理してしまうケースがあります。これは益金算入すべきであり、法人税に影響するので注意が必要です。
具体例:仕訳パターンと実務のポイント
小規模企業共済掛金の仕訳例
小規模企業共済の掛金は、個人事業主の場合「事業の必要経費」ではなく「所得控除」として扱われます。したがって、帳簿上は事業経費に含めず、事業用資金から引き落とした場合でも「事業主貸」として処理するのが正解です。
- 例:毎月2万円を口座から引き落とした場合
(借方)事業主貸 20,000 / (貸方)普通預金 20,000
このように仕訳し、確定申告時に「小規模企業共済等掛金控除」として申告書に反映させることになります。
ポイント
- 経費ではなく控除扱い
- 帳簿に記録はするが、損益計算には影響しない
- 税務上のメリットは「課税所得の圧縮」による所得税・住民税の軽減
経営セーフティ共済(倒産防止共済)の仕訳例
経営セーフティ共済の掛金は法人・個人事業主ともに「損金算入」「必要経費算入」が可能です。毎月の掛金は費用として処理できます。
- 例:毎月5万円を口座から引き落とした場合
(借方)租税公課 50,000 / (貸方)普通預金 50,000
会計上は「租税公課」または「保険料」として計上するケースが多く、科目の選択は事務所の方針や会計ソフトの設定に合わせます。
ポイント
- 経費として処理できる
- 最大240万円/年(20万円×12か月)が損金算入可能
- 解約や貸付利用時には「雑収入」として益金に戻る点に注意
法人で小規模企業共済に加入する場合
法人の役員が小規模企業共済に加入した場合、掛金は「役員個人の控除」となるため、法人の経費にはなりません。法人が掛金を負担した場合は「役員賞与」と見なされる可能性があるため注意が必要です。
- 例:法人の口座から社長の共済掛金を引き落とした場合
(借方)役員貸付金 20,000 / (貸方)普通預金 20,000
このように処理し、最終的には社長個人の所得控除で扱います。
共済掛金の返戻金を受け取った場合の仕訳例
共済の返戻金は、受け取った時点で課税対象となります。種類によって処理が異なるため注意が必要です。
- 小規模企業共済の返戻金(解約手当金)
→ 個人の一時所得や退職所得として扱われ、事業の帳簿には載せません。 - 経営セーフティ共済の解約返戻金
→ 法人・個人事業ともに「雑収入」として益金算入します。
(借方)普通預金 1,000,000 / (貸方)雑収入 1,000,000
よくある間違いと修正方法
- 小規模企業共済を「経費」として計上してしまう
→ 修正仕訳を入れて「事業主貸」に振り替える。 - 法人が役員の掛金を経費に入れてしまう
→ 「役員貸付金」に振り替え、法人経費から除外する。 - セーフティ共済の返戻金を非課税として処理する
→ 「雑収入」で課税対象とする必要がある。
実務で役立つ記帳・仕訳の工夫
会計ソフトでの自動仕訳登録
freeeやマネーフォワード、弥生会計などのクラウド会計ソフトを利用している場合、定期的な掛金は「自動仕訳ルール」に登録しておくと入力ミスを防げます。
- 毎月引き落としを「定期取引」として設定
- 科目を「租税公課」または「事業主貸」に固定
- 摘要に「共済掛金○月分」と入れて検索性を高める
共済掛金の記帳・仕訳に関するよくある質問(Q&A形式)
ここまでの内容を整理しつつ、実務でよく出てくる質問に答える形でまとめます。実際の現場で想定される疑問をQ&Aで把握すると、仕訳の判断がスムーズになります。
Q1. 小規模企業共済の掛金は全額経費になりますか?
A. いいえ。小規模企業共済の掛金は、所得税法上「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除の対象です。損益計算書上の経費にはできません。記帳上は「事業主貸」で処理します。
Q2. 経営セーフティ共済(倒産防止共済)の掛金はどう仕訳するの?
A. 経営セーフティ共済の掛金は「全額損金算入」が可能です。記帳上は「支払保険料」や「共済掛金」などの勘定科目を用い、費用処理します。ただし、解約時に返戻金を受け取ると「雑収入」として課税対象になります。
Q3. 共済掛金をプライベート用の口座から支払ったらどうする?
A. 個人事業主が事業用と個人用を兼ねる口座から支払った場合には「事業主貸」で処理します。事業経費ではなく、個人が控除を受けるための支出だからです。
Q4. 法人が小規模企業共済に加入できる?
A. 小規模企業共済は「個人事業主または会社役員本人」が対象です。法人自体は加入できません。したがって、法人会計で処理するものではなく、役員個人の所得控除として取り扱います。
Q5. 仕訳を間違えた場合はどう修正する?
A. 個人事業主の場合、経費計上してしまった小規模企業共済の掛金は「事業主貸」に振り替える修正仕訳を行います。法人の場合も、誤って経費計上していると税務調査で否認される可能性があるため、決算前に修正しましょう。
記帳・仕訳を正しく行うためのチェックリスト
最後に、経営者や経理担当者が実務で迷わないためのチェックリストをまとめます。
- ✅ 小規模企業共済は「所得控除」であり、経費処理はしない
- ✅ 経営セーフティ共済は「経費処理(損金算入)」が可能
- ✅ 仕訳科目は「事業主貸」「支払保険料」「共済掛金」などを使い分ける
- ✅ 解約時には返戻金の「収入計上」を忘れない
- ✅ 決算時に掛金の取扱いを整理し、税務申告と一致させる
まとめ
共済制度は、事業者にとって「節税」「将来の備え」の両方を実現できる強力なツールです。ただし、小規模企業共済と経営セーフティ共済では仕訳処理の方法が大きく異なります。
- 小規模企業共済 → 所得控除(仕訳は「事業主貸」)
- 経営セーフティ共済 → 損金算入(仕訳は「支払保険料」「共済掛金」など)
この違いを正しく理解し、会計処理に反映させることで、税務リスクを回避しつつ節税効果を最大限に活かすことができます。
経営者・フリーランスが安心して事業を続けるために、共済の記帳と仕訳は「正確さ」が何より大切です。迷ったら税理士や会計士に相談するのも有効な手段です。










