事業承継に必要な資金を効率よく準備する方法
中小企業や個人事業の経営者にとって、事業承継は避けられない重要な経営課題です。後継者への引き継ぎをスムーズに行うためには、単に経営ノウハウを伝えるだけでなく、資金の確保も不可欠です。特に承継時には株式や事業資産の買い取り、相続税・贈与税の納税、退職金の支払いなど、まとまった資金が必要になります。
しかし、多くの経営者は日々の資金繰りに追われ、事業承継資金の準備が後回しになりがちです。そんな中で注目されているのが、「共済制度」を活用した資金準備方法です。
承継資金不足が招くリスク
もし事業承継資金の準備が不十分だと、次のようなリスクが生じます。
- 後継者の負担増:相続税や贈与税の支払いのために、事業資産を売却せざるを得ない
- 承継の遅延:資金不足により、事業承継の時期をずらさざるを得ない
- 事業継続の危機:金融機関からの借入に依存し、返済負担で経営が圧迫される
- 家族関係の悪化:相続財産の分配を巡るトラブルが発生する
つまり、資金準備は承継の「潤滑油」であり、事前に計画的に準備することが重要です。
共済制度を使った事業承継資金確保の概要
事業承継資金を準備する方法には、定期預金や生命保険、企業年金など様々な選択肢がありますが、その中でも「共済制度」は節税効果と資金積立を両立できる制度として評価されています。
共済制度の代表例
- 小規模企業共済
中小企業経営者や個人事業主が廃業・退職時に受け取れる退職金制度で、掛金は全額所得控除可能。 - 経営セーフティ共済(倒産防止共済)
取引先倒産時の資金繰り対策用だが、解約時に積立金を受け取れるため承継資金として活用可能。 - 中小企業退職金共済(中退共)
従業員退職金制度として活用でき、承継時の従業員への支払いにも対応可能。
なぜ共済が事業承継資金準備に向いているのか
共済制度が事業承継資金準備に適している理由は、単なる積立制度にとどまらず、税制優遇と流動性のバランスに優れているからです。
1. 掛金が全額経費または所得控除になる
- 小規模企業共済:掛金全額が「小規模企業共済等掛金控除」として所得控除
- 倒産防止共済:掛金全額を損金算入可能(法人)、事業所得控除(個人)
2. 長期積立による計画的資金形成
- 月額掛金上限内で積み立てることで、無理なく長期的な資金準備が可能
- 承継予定時期に合わせて計画的に解約・受給できる
3. 万が一のときの保障・流動性
- 倒産防止共済は緊急融資制度を併用でき、承継前に資金不足が発生しても対応可能
- 小規模企業共済は廃業・退職以外のケースでも一定条件で解約可能
共済を活用した承継資金準備の設計ポイント
事業承継資金として共済を活用する場合、次の点を押さえて設計します。
- 承継時期の目安を決める
5年後・10年後など、おおよその承継予定時期を設定し、それに合わせた掛金額を設定。 - 複数制度の組み合わせ
小規模企業共済+倒産防止共済を併用して、用途ごとに資金を分ける。 - 解約タイミングの最適化
解約時の税金負担(退職所得控除や一時所得控除)を最大限活かすタイミングで受け取る。
共済を活用した承継資金シミュレーション事例
事業承継に必要な資金は業種や規模によって異なりますが、ここでは小規模企業共済と倒産防止共済を併用した場合の資金準備イメージをシミュレーションします。
前提条件
- 現在の経営者年齢:55歳
- 承継予定年齢:65歳(10年後)
- 小規模企業共済:月額7万円(最大)
- 倒産防止共済:月額20万円(最大)
- 利息や制度改正は考慮せず2025年現在の制度条件で試算
| 制度名 | 月額掛金 | 年間掛金 | 10年間の総額 | 受取予定額(概算) | 税制優遇効果 |
|---|---|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 7万円 | 84万円 | 840万円 | 約1,000万円(予定利息込み) | 所得控除で最大330万円程度節税(所得税+住民税) |
| 倒産防止共済 | 20万円 | 240万円 | 2,880万円 | 掛金総額同額(解約返戻100%) | 法人なら全額損金算入で法人税軽減 |
※節税効果は法人税率・所得税率によって異なります
このシミュレーションでは、10年間で約3,880万円の承継資金が確保でき、さらに所得税・法人税の軽減効果も得られます。
制度ごとのメリット・デメリット比較
| 制度名 | 主なメリット | 主なデメリット |
|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 掛金全額所得控除、退職所得扱いで受取時の税負担軽減、個人事業主も加入可 | 解約時期によっては元本割れの可能性(20年未満)、途中解約に制限あり |
| 倒産防止共済 | 掛金全額損金算入(法人)、中途解約可、貸付制度あり | 掛金上限高めだが資金拘束も大きい、受取時は益金計上(法人) |
| 中退共 | 従業員の退職金制度を外部積立できる、掛金全額損金算入 | 経営者本人は加入不可、受取時期が限定的 |
この比較表からもわかるように、経営者個人の承継資金には小規模企業共済、法人の資金準備には倒産防止共済が相性が良い傾向があります。
実際の活用事例
事例1:後継者への株式譲渡資金を準備
製造業A社の経営者(60歳)は、後継者となる長男に自社株を譲渡する予定。譲渡代金の一部を小規模企業共済で準備し、退職所得控除を活用して税負担を抑えつつ受け取った。
ポイント
- 小規模企業共済は退職所得扱いで2分の1課税
- 譲渡資金の自己負担を減らせる
事例2:承継時の退職金支払いに備える
建設業B社では、経営者交代時に長年勤めた幹部社員へ退職金を支払う必要があった。倒産防止共済を積み立て、解約返戻金を原資に一括支払い。
ポイント
- 法人で積み立てるため毎年の法人税を軽減
- 解約返戻金は益金計上されるが、退職金支払いと相殺し実質課税負担を抑制
共済を活用した事業承継資金確保のステップ
事業承継資金は、計画的に積み立てることで負担を最小化できます。以下は実践に移すための具体的な流れです。
1. 必要資金の試算
- 後継者への株式譲渡代金
- 退職金支払い予定額
- 事業承継に伴う税金(相続税・贈与税)
- その他関連費用(専門家報酬、登記費用など)
2. 制度選びと掛金設定
- 個人の資金確保:小規模企業共済
- 法人の資金確保:倒産防止共済・中退共
- 無理のない掛金額を設定(余裕資金の範囲で)
3. 節税シミュレーション
- 税理士に依頼して「掛金額・節税額・受取額」の3要素を試算
- 受取時の課税方法(退職所得・一時所得・益金)も確認
4. 中途解約リスクの確認
- 承継時期に合わせて解約タイミングを逆算
- 20年未満の解約は元本割れする制度もあるため注意
5. 承継計画書に組み込む
- 「いつ・どの制度を解約して・どの資金に充てるか」を明文化
- 後継者や関係者と共有し、承継スケジュールに反映
まとめ
共済制度は、単なる節税策にとどまらず、事業承継資金の安定確保に大きく貢献します。
特に小規模企業共済と倒産防止共済は、税制メリットと資金準備を両立できる優れたツールです。
ただし、制度ごとの加入条件・解約条件・課税方法を理解した上で、承継スケジュールに沿った計画的運用が欠かせません。
経営者の退職金、後継者の株式取得資金、従業員の退職金など、承継に伴う支出は多岐にわたります。
早期から準備を始め、税理士や承継専門家と連携して資金計画を立てることが、スムーズな事業承継のカギとなります。










