役員報酬と賞与の関係を正しく理解する
会社を経営するうえで、役員に支払う報酬や賞与は重要な経営判断のひとつです。
役員報酬は毎月定額で支払われる給与、賞与は臨時に支給される特別な給与です。
これらの金額設定や支給タイミングは、会社の税額や役員個人の所得税額に直結します。
役員報酬は法人税の計算上、原則として損金算入が認められます。一方、役員賞与は原則損金不算入であり、定められた例外条件を満たさないと経費にできません。このため、報酬と賞与のバランスを工夫することで、法人税と所得税のトータル負担をコントロールする節税戦略が可能になります。
なぜバランスが節税に影響するのか
役員報酬と賞与のバランスを考えることが節税につながるのは、法人税率と個人の所得税率の差、および損金算入可否がポイントになるからです。
例えば、役員報酬を高く設定すると法人税の課税所得が減りますが、役員個人の所得税負担は増えます。逆に役員報酬を抑えすぎると、法人税負担は増えますが、役員個人の税金は下がります。
ここに賞与の活用が加わると、支給タイミングを調整してキャッシュフローと税負担を最適化できます。
役員報酬の税務上の基本ルール
定期同額給与
役員報酬は原則として毎月同額で支払う必要があり、期中に増減できません。増減が認められるのは以下のケースです。
- 期首から3か月以内の改定
- 職務内容の重大な変更
- 経営状況の著しい悪化
損金算入要件
定期同額給与や事前確定届出給与(後述)であれば法人の損金として認められます。これにより法人税の節税効果が得られます。
役員賞与の税務上の扱い
役員賞与は原則損金不算入ですが、事前確定届出給与として税務署に事前届出を行い、届出通りに支給すれば損金算入が可能です。
事前確定届出給与のポイント
- 届出期限は、株主総会や取締役会で支給額を決議した日から1か月以内
- 支給日・金額を事前に確定させる必要あり
- 届出通りに支給しないと損金算入不可
節税のための役員報酬と賞与の基本戦略
- 役員報酬は法人税率と個人税率のバランスで決める
- 法人税率より個人所得税率が低い場合は、役員報酬を多めに設定
- 逆の場合は、役員報酬を抑えて法人内に利益を残す
- 賞与は事前確定届出給与で活用
- 決算直前の利益調整に活用可能
- キャッシュフローと節税効果を同時に狙える
- 社会保険料負担も考慮
- 役員報酬や賞与は社会保険料の算定基礎になるため、過剰支給は負担増になる
法人税と個人所得税の違いによる影響
以下のシミュレーションは、法人の利益1,000万円を役員報酬で全額支給する場合と、一部を賞与にする場合の比較です(概算、社会保険料は簡略化)。
| ケース | 役員報酬(月額) | 賞与 | 法人税 | 個人所得税 | 合計税負担 |
|---|---|---|---|---|---|
| 全額報酬 | 83万円×12か月 | 0円 | 0円 | 約200万円 | 約200万円 |
| 一部賞与 | 70万円×12か月 | 160万円 | 約20万円 | 約180万円 | 約200万円 |
一見すると合計税負担は同じに見えますが、支給タイミングや社会保険料負担の差により、実質的なキャッシュ残高は変わります。賞与活用は法人・個人の資金繰りを柔軟に調整する手段になり得ます。
業種や経営状況による最適バランスの考え方
安定黒字企業の場合
- 毎期安定して黒字を計上する企業では、役員報酬を一定水準に保ちつつ、事前確定届出給与による賞与で利益調整するのが有効です。
- 法人税率が一定のため、予想利益に応じた役員賞与の設定で税負担を平準化できます。
収益変動の大きい企業の場合
- 建設業や季節商材を扱う企業などでは、年度末の利益が予測しにくいことがあります。
- この場合、役員報酬はやや低めに設定し、年度末に賞与で調整することで、赤字リスクを抑えながら節税を図れます。
具体的な数値シミュレーション
例:法人の利益見込み1,500万円、役員1名、社会保険料は概算。
| 設定パターン | 年間役員報酬 | 賞与(事前確定) | 法人税 | 個人所得税 | 社会保険料 | 税・社保合計負担 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A:全額報酬 | 1,500万円 | 0円 | 0円 | 約460万円 | 約250万円 | 約710万円 |
| B:報酬+賞与 | 1,200万円 | 300万円 | 約20万円 | 約410万円 | 約200万円 | 約630万円 |
| C:報酬抑制 | 1,000万円 | 500万円 | 約40万円 | 約380万円 | 約180万円 | 約600万円 |
→ パターンCでは、社会保険料が大きく減るため、総負担額はAより約110万円少なくなります。
このように、報酬と賞与の組み合わせは、法人税・所得税だけでなく社会保険料の最適化にも直結します。
実務での設定手順
- 利益予測の精度を上げる
- 前期実績や受注残、経費予定をもとに年間利益を予測
- 法人税率と個人税率を比較
- 法人税率<個人税率なら報酬を抑え、法人に利益を残す
- 法人税率>個人税率なら報酬を増やし、個人課税で処理
- 事前確定届出給与の計画
- 支給日と金額を事業年度開始直後に決定
- 株主総会・取締役会の議事録を作成
- 社会保険料の影響を試算
- 報酬額を基に算出し、負担が重くなりすぎないか確認
注意点と失敗事例
- 事前届出の期限切れ
- 1日でも遅れると損金算入不可
- 支給額や日付の変更
- 届出内容と異なると全額否認される
- 社会保険料負担の見落とし
- 節税できても社保負担が増えて総合的に損するケースも
今からできる行動ステップ
- 直近の法人税率と役員個人の所得税率を確認
- 利益予測を立て、報酬・賞与の組み合わせパターンを3案ほど試算
- 株主総会や取締役会で決議し、事前確定届出給与の届出を税務署へ提出
- 年度途中も予測利益を見直し、次年度の設定に反映
- 必要に応じて税理士や社会保険労務士に相談
まとめ
役員報酬と賞与のバランス調整は、法人税・所得税・社会保険料という3つの負担に同時に作用します。
事前確定届出給与を活用すれば、決算間際でも利益調整が可能になり、資金繰りの安定化にもつながります。
ただし、届出期限や支給条件には厳格なルールがあるため、計画的かつ慎重な設定が不可欠です。
毎年の利益見通しを踏まえ、最適なバランスを模索することが、長期的な節税と経営安定のカギとなります。










