収入が安定しないフリーランスにこそ必要な「保険」と「節税」
フリーランスや個人事業主は、会社員と違って健康保険や年金が自動的に整備されているわけではありません。
さらに、収入の波が大きく、税負担も自己管理が必要です。
そのため、保険を活用してリスク対策をしながら、同時に節税効果を得るという戦略が注目されています。
実際に、掛け金が全額または一部控除される保険商品や制度を利用すれば、所得税・住民税の負担を軽減できます。
しかし、「保険で節税できる」という情報だけで契約してしまうと、思わぬ落とし穴にはまることもあります。
「保険で節税できる」という言葉の真意
「保険で節税できる」というのは、
支払った保険料が税務上の所得控除や必要経費として認められるため、その分課税対象の所得が減る
という仕組みのことです。
例えば、課税所得が500万円のフリーランスが、控除対象の保険に年間20万円加入した場合、
課税所得は480万円になり、その分の所得税・住民税が減ります。
ただし、これは「保険料の支払い=そのまま節税」ではなく、
税法で定められた条件や上限額、控除区分に合致して初めて成立します。
さらに、将来の解約や受け取り時に課税されるケースもあり、単純に「お得」とは言い切れません。
フリーランスが節税効果を得られる保険の種類
フリーランスが利用できる保険の中で、節税につながる主なものは次の通りです。
| 保険・制度名 | 税務上の扱い | 控除区分 | 年間控除限度額 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|
| 小規模企業共済 | 全額所得控除 | 小規模企業共済等掛金控除 | 上限84万円 | 廃業・老後資金に活用可能 |
| 国民年金基金 | 全額所得控除 | 小規模企業共済等掛金控除 | 上限は共済と合算 | 老後年金の上乗せ |
| 生命保険料控除(個人) | 一部所得控除 | 一般・介護医療・個人年金 | 各4万円(合計12万円) | 税額控除ではなく所得控除 |
| 所得補償保険(業務用) | 必要経費算入 | – | 制限なし(業務関連に限る) | 病気・ケガで働けない期間の収入補償 |
| 事業活動総合保険 | 必要経費算入 | – | 制限なし | 賠償責任や財物損害の補償 |
節税と保険の関係を誤解すると損をする理由
フリーランスが「節税になる」と聞いて保険に入る場合、次のような誤解が多く見られます。
- 保険料を払った額=税金が減る額だと思っている
→ 実際は課税所得が減るだけで、減税額は税率によって変動します。 - 解約返戻金や満期金の税金を考えていない
→ 将来受け取るときに雑所得や一時所得として課税される場合があります。 - 目的より節税効果を優先してしまう
→ 本来の保障が不十分で、本末転倒になるケースがあります。
節税保険を選ぶ際に押さえるべき3つのポイント
1. 控除対象かどうかを必ず確認する
生命保険や共済、事業用保険など、税務上の扱いが異なります。
契約前に「どの控除枠に該当するか」「経費算入できるか」を税理士や保険会社に確認しましょう。
2. 上限額と実効税率を計算する
例えば、生命保険料控除は所得控除額が最大12万円ですが、課税所得に応じた実効税率が15%なら、実際の減税額は約1.8万円にとどまります。
3. 将来の受取時課税を見据える
掛け金を経費や控除で節税しても、解約返戻金や年金受取時に税金がかかれば、結果的に節税効果が薄れることもあります。
ケース別に見る保険活用と節税効果
フリーランスの働き方や収入状況によって、最適な保険の選び方と節税効果は異なります。
ここでは、代表的な3つのケースを例に解説します。
ケース1:安定収入のある副業フリーランス
プロフィール:会社員として年収500万円、副業で年収200万円。副業分は雑所得扱い。
課題:本業で社会保険はカバーされているが、副業分の税負担が気になる。
おすすめ保険と理由:
- 小規模企業共済(掛金月額3万円)
→ 副業収入に対して全額所得控除が適用され、所得税・住民税の負担を減らせる。 - 所得補償保険(副業の業務のみ対象)
→ 副業で事故・病気があった場合の補償。保険料は副業経費として算入可能。
試算例
| 項目 | 保険加入前 | 保険加入後 |
|---|---|---|
| 副業課税所得 | 200万円 | 164万円(共済掛金36万円控除) |
| 所得税(10%) | 20万円 | 16.4万円 |
| 住民税(10%) | 20万円 | 16.4万円 |
| 合計税額 | 40万円 | 32.8万円 |
| → 年間約7.2万円の節税効果。 |
ケース2:フルタイムのフリーランス(単身)
プロフィール:年収600万円。社会保険は国民健康保険と国民年金。
課題:老後資金と税負担対策を同時に行いたい。
おすすめ保険と理由:
- 小規模企業共済(月額5万円)
- 国民年金基金(月額2万円)
→ 両方合わせて年間84万円まで所得控除が可能。老後資金を積み立てながら節税。 - 生命保険(医療保障付き)
→ 生命保険料控除枠をフル活用。
試算例
| 項目 | 保険加入前 | 保険加入後 |
|---|---|---|
| 課税所得 | 600万円 | 516万円(共済60万+基金24万控除) |
| 所得税(20%) | 60万円 | 51.2万円 |
| 住民税(10%) | 60万円 | 51.6万円 |
| 合計税額 | 120万円 | 102.8万円 |
| → 年間約17.2万円の節税効果。 |
ケース3:不安定収入のフリーランス(家族あり)
プロフィール:年収350〜500万円。妻と子ども2人。
課題:収入が不安定なため、病気やケガで働けない期間の生活費を確保したい。
おすすめ保険と理由:
- 所得補償保険(1年間の補償)
→ 病気・ケガで就業不能になった場合の生活資金確保。保険料は経費算入可。 - 生命保険(収入保障型)
→ 万一の際に家族の生活を守る。生命保険料控除で節税。
試算例
| 項目 | 保険加入前 | 保険加入後 |
|---|---|---|
| 課税所得 | 400万円 | 388万円(生命保険料控除最大12万円適用) |
| 所得税(10%) | 40万円 | 38.8万円 |
| 住民税(10%) | 40万円 | 38.8万円 |
| 合計税額 | 80万円 | 77.6万円 |
| → 年間約2.4万円の節税効果+万一の際の保障。 |
節税効果を最大化するためのシミュレーション方法
節税額は以下の式で概算できます。
コピーする編集する節税額 ≒ 控除額 × 実効税率
例えば、控除額が50万円、実効税率(所得税+住民税)が20%なら、
節税額は10万円です。
保険を活用した節税で気を付ける税務上のポイント
フリーランスが保険を使って節税を行う場合、**「加入時の控除」だけでなく「解約時や受取時の課税」**まで考慮しないと、後で予想外の税負担が発生する可能性があります。
保険料控除の上限
- 生命保険料控除
→ 新制度では最大12万円(所得税4万円+住民税2.8万円、一般・介護医療・個人年金の合計) - 小規模企業共済等掛金控除
→ 掛金は全額控除。ただし無制限に入れれば良いわけではなく、将来の受取時に課税。
解約返戻金と課税
- 小規模企業共済の受取時
→ 一括受取は退職所得控除、分割受取は公的年金等控除が適用。
→ 控除額を超えた部分は課税対象。 - 生命保険の満期金や解約返戻金
→ 一時所得(50万円控除後、1/2課税)が基本。ただし契約形態によっては雑所得になる場合も。
所得区分の確認
保険料が経費として認められるかは、業務との関連性が重要です。
- 所得補償保険(業務に限定):必要経費
- 医療保険や生命保険(私的保障):原則経費にならず、控除のみ
よくあるNGパターン
| NG事例 | なぜNGか |
|---|---|
| 高額な保険料を払って節税を狙う | 将来の解約時に多額の課税負担が発生 |
| 私的目的の保険料を経費計上 | 税務調査で否認され、追徴課税のリスク |
| 短期で解約 | 解約返戻率が低く、節税効果より損失が大きい |
節税目的だけで保険を選んではいけない理由
- キャッシュフロー悪化のリスク
長期契約で掛金を払い続けると、毎月の資金繰りが厳しくなる可能性。 - 税制改正リスク
保険商品や控除制度は変更されることがあり、将来の節税効果が減少する場合がある。 - 保障ニーズの変化
家族構成や事業規模の変化により、必要な保障内容が変わる。
失敗しない保険選びの判断フロー
以下のフローに沿って検討すると、節税と保障を両立できます。
- 保障ニーズの洗い出し
- 生活費の補填
- 医療費・介護費
- 老後資金
- 現在の税負担を試算
- 所得税率・住民税率を確認
- 控除枠の活用順序を決定
- 小規模企業共済 → 国民年金基金 → 生命保険料控除
- 保険商品の選定
- 解約返戻率や受取時課税も含めて比較
- 資金計画を立てる
- 掛金が長期的に払えるか確認
- 年1回の見直し
- 事業状況や家族構成の変化に応じて調整
保険の見直しタイミング
- 確定申告後(前年の所得が確定した後)
- 事業規模が変わったとき
- 家族構成が変化したとき
- 制度改正や新商品が登場したとき
節税と保障を両立させる保険の組み合わせ例
フリーランスが保険を使って節税する場合、単品契約よりも複数の制度や保険を組み合わせることで効果を最大化できます。
ケース1:安定収入のフリーランス
- 小規模企業共済(掛金月5万円)
→ 掛金全額控除、退職金代わりに。 - 国民年金基金(掛金月1万円)
→ 老後年金を上乗せしつつ全額控除。 - 医療保険(掛金月3,000円)
→ 長期入院や高額医療に備える。
ケース2:収入変動が大きいフリーランス
- 所得補償保険(掛金月5,000円)
→ 怪我・病気で働けない期間の収入補填。 - 掛け捨て型定期保険(掛金月2,000円)
→ 万一の死亡保障を低コストで確保。 - 小規模企業共済(掛金月3万円)
→ 収入が高い年だけ掛金を増額。
ケース3:家族を養うフリーランス
- 収入保障保険(掛金月6,000円)
→ 残された家族の生活費確保。 - 学資保険(掛金月1万円)
→ 子どもの教育資金を確保。 - 国民年金基金(掛金月1万円)
→ 老後生活資金の底上げ。
加入・見直し時のチェックリスト
- 加入目的が明確か?
→ 節税目的か保障目的か、または両方か。 - 控除枠を最大限活用しているか?
→ 小規模企業共済や国民年金基金の活用状況。 - 解約返戻金や受取時課税を確認しているか?
- 長期的に掛金を支払えるか?
- 事業・家族の状況に合った保障か?
- 保険の重複がないか?
実践的な行動ステップ
- 現状把握
年間所得・税率・現在加入している保険をリスト化。 - 節税余地の確認
生命保険料控除、小規模企業共済等掛金控除の空き枠を把握。 - 複数商品の比較
返戻率、保険料、保障範囲、受取時課税を比較。 - 資金計画の作成
キャッシュフローに無理のない掛金設定。 - 年1回の見直し
確定申告後に最新の所得と税額を基に調整。
まとめ
- フリーランスが保険で節税できるのは事実だが、掛金控除の効果と受取時の課税を両面で考える必要がある。
- 節税目的だけでなく、保障としての役割をしっかり果たす保険選びが重要。
- 小規模企業共済や国民年金基金、所得補償保険などを組み合わせる戦略が有効。
- 加入や見直しのタイミングを逃さず、毎年の確定申告後に再検討する習慣をつけると効果的。










