節税は「合法的」に行うことが大前提
事業をしていると、「できるだけ税金を減らしたい」という思いは自然です。
しかし、節税対策の中には一見有効に見えても、税務調査で否認されたり、将来の資金繰りを悪化させたりするものがあります。
特に、ネットや知人からの情報をそのまま真似してしまうと、最新の税制に合わなかったり、そもそも違法に近い行為だったりすることもあります。
節税は、税法が認める範囲で行わなければなりません。
違法行為や過剰な節税は、税務署からの指摘や追徴課税のリスクを伴います。そこで今回は、**「やってはいけない節税NG事例5選」**と、その代替となる安全な節税方法を解説します。
間違った節税が招くリスク
節税対策を誤ると、以下のようなリスクが発生します。
| リスク | 内容 |
|---|---|
| 税務調査で否認 | 経費計上や控除が認められず、過去の税額を追加で納付する必要が出る |
| 延滞税・加算税 | 遡って税金を支払う際、延滞税や過少申告加算税が上乗せされる |
| 信用低下 | 金融機関からの評価が下がり、融資が受けにくくなる |
| 将来の資金繰り悪化 | 過度な節税で資金を固定化し、事業運営に必要なキャッシュが不足する |
つまり、**「節税のつもりが、逆に損をする」**ケースが少なくないのです。
節税対策でやってはいけないNG事例5選
ここからは、特に注意が必要なNG事例を5つ紹介します。いずれも中小企業や個人事業主が陥りやすいポイントです。
1. 私的な支出を経費に計上する
やってしまいがちな例
- 家族旅行を「出張」として旅費交通費に計上
- プライベートで使う車や家電を全額事業用経費にする
- 自宅のリフォーム代を「店舗改装費」として計上
こうした行為は、事業に直接必要ない支出を経費化する典型的なNG節税です。
税務調査では、領収書や契約書、使用状況まで確認されます。事業との関連性が立証できなければ否認され、追加課税の対象になります。
正しい方法
- 家事按分を用い、事業用と私用の割合を明確に分ける
- 支出の必要性を説明できる証拠(写真・契約書・使用記録)を保管する
- 家族旅行や私的買い物は経費に含めない
2. 節税目的だけの過剰な在庫購入
やってしまいがちな例
- 決算直前に必要以上の商品や材料を大量購入
- 使う予定がない消耗品を「経費確保」のために買い込む
確かに、在庫購入は一時的に経費として利益を圧縮できます。
しかし、過剰な在庫は資金繰りを圧迫し、保管コストや廃棄ロスのリスクも増大します。税務署から「事業に必要な量を超えている」と判断されれば、経費として認められないこともあります。
正しい方法
- 実際の販売計画や使用予定に基づき、必要量だけ購入する
- 決算直前の経費調整は、消耗品ではなく設備投資や広告宣伝など将来の売上に直結する支出を優先
3. 架空経費の計上
やってしまいがちな例
- 実際には存在しない外注費や仕入れを計上
- 架空の取引先を作り、請求書だけ発行してもらう
- 実際に支払っていない交通費や会議費を記載
これは脱税行為に直結する最も危険なNG節税です。税務署が銀行取引や取引先の状況を調べれば、簡単に発覚します。
加えて、架空経費が発覚した場合は重加算税が課され、刑事罰に至ることもあります。
正しい方法
- すべての経費について、領収書や請求書、支払証憑を保管する
- 取引先とのやり取り(メールや契約書)を残しておく
- 実態のない取引は絶対に行わない
4. 過度な役員報酬の設定
やってしまいがちな例
- 利益を減らすため、役員報酬を必要以上に高く設定
- 期中で業績が悪化したため、途中から役員報酬を下げる(定期同額給与のルール違反)
- 赤字でも高額な役員報酬を維持して資金不足に陥る
役員報酬は法人税の節税手段として有効ですが、**税法では厳格なルール(定期同額給与など)**が定められています。期中の変更や過剰設定は、損金不算入となるだけでなく、会社の資金繰りにも悪影響を与えます。
正しい方法
- 役員報酬は、事業計画と利益予測に基づいて設定する
- 年度途中の変更は、例外的なケース(業績悪化による臨時改定など)を除き避ける
- 個人側の所得税や社会保険料も考慮し、総合的な負担を最適化する
5. 不適切な減価償却・資産処理
やってしまいがちな例
- 高額な備品や設備を一括で経費処理(償却資産に該当するのに経費化)
- 法定耐用年数を無視して減価償却額を過大計上
- 廃棄や売却していない資産を除却損として計上
減価償却は、資産の取得費用を耐用年数に応じて分割して経費化する制度です。これを誤って行うと、税務調査で修正申告を求められます。また、一括経費化できる「少額減価償却資産」や「一括償却資産」の条件を誤解して適用すると、否認されるリスクがあります。
正しい方法
- 固定資産の取得は、耐用年数表に基づいて償却スケジュールを組む
- 少額減価償却資産(取得価額10万円未満)や一括償却資産(取得価額20万円未満)は正しく区分する
- 資産の廃棄・売却は、**証拠資料(写真・廃棄証明など)**を残しておく
節税と資金繰りのバランスを考える重要性
節税は単に税額を減らすだけではなく、事業を継続的に成長させるための資金確保とセットで考える必要があります。過剰な節税は、キャッシュアウトを増やして資金繰りを悪化させることが多く、結局は事業にマイナスです。
節税を考えるときは、次の3つの視点を持つと安全です。
- 税法上適法であるか(税務調査で否認されないか)
- 事業の成長に寄与するか(売上や利益の向上に結びつくか)
- キャッシュフローを圧迫しないか(手元資金が減りすぎないか)
安全な節税の実践ステップ
節税を成功させるためには、単発的な方法ではなく、計画性と法令遵守が欠かせません。以下は、税務調査でも指摘されにくい節税の進め方です。
ステップ1:年間スケジュールの策定
- 決算月から逆算して節税策を検討する
- 年度初めに利益予測表を作成し、必要な節税策の大枠を決める
- 月次決算で着地見込みを確認しながら調整する
ステップ2:税制の最新情報を把握
- 政府の税制改正大綱や国税庁の発表を定期的にチェック
- 特例制度や期間限定の優遇措置を見逃さない(例:中小企業経営強化税制、所得拡大促進税制など)
- 制度ごとの適用要件・期限を確認
ステップ3:証拠資料を残す
- 領収書、契約書、議事録、写真などの証拠を整理
- 電子帳簿保存法に対応した保存形式で保管
- 節税目的の取引であることを説明できる資料を用意する
ステップ4:税理士との定期ミーティング
- 決算直前ではなく、四半期ごとに面談する
- 新しい取引や設備投資の前に事前相談
- 節税だけでなく、資金繰りや事業計画とのバランスも確認
節税成功事例と失敗事例
成功事例:設備投資と優遇税制の活用
ある製造業の中小企業は、老朽化した機械の入れ替えを決算前に実施。中小企業経営強化税制を適用し、即時償却で大幅な節税を実現。加えて、生産効率が向上し、翌期の売上増にもつながった。
ポイント:
- 優遇税制を正しく理解し、要件を満たす投資を選択
- 節税と生産性向上を同時に達成
失敗事例:過剰な交際費での節税
ある飲食業経営者は、交際費を多く計上して節税を狙ったが、領収書の裏付けが不十分で一部否認され追徴課税。さらに、資金繰りが悪化し、翌期に資金ショート。
ポイント:
- 節税目的でも証拠がなければ否認リスク大
- キャッシュフローを軽視すると事業継続が危うくなる
今日からできる安全な節税リスト
1. 経費計上の見直し
- 領収書や請求書を整理し、漏れている経費を洗い出す
- 家事按分(自宅兼事務所の電気代や通信費など)を適正に計算
- 小額でも積み重ねることで大きな節税効果に
2. 控除制度のフル活用
- 青色申告特別控除(65万円)
- 小規模企業共済、倒産防止共済
- iDeCo(個人型確定拠出年金)、NISAなどの資産形成制度
3. 設備投資のタイミング調整
- 優遇税制の適用時期を考慮し、決算前に導入
- 生産性向上と節税を同時に実現できる投資を選択
4. 家族への所得分散
- 配偶者や子どもを従業員として雇用(適正給与)
- 家族が経営に関与している場合、社会保険や給与計上で節税効果
5. 専門家への事前相談
- 節税策の適法性を必ず税理士に確認
- 制度変更や税務調査の傾向に合わせた最新対策が可能
実行前のチェックポイント
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| 証拠資料は揃っているか | 領収書、契約書、議事録、写真などがあるか |
| 法令に適合しているか | 国税庁や税理士の確認を受けているか |
| 資金繰りに影響はないか | キャッシュフローの悪化を招かないか |
| 節税効果と事業効果は両立しているか | 単なる節税でなく事業にプラスか |
節税は「守り」と「攻め」のバランスが重要
節税は事業を守る大切な手段ですが、やりすぎれば税務調査や資金繰り悪化のリスクがあります。安全で効果的な節税のためには、
- 最新の税制を理解する
- 証拠資料をきちんと残す
- 税理士と二人三脚で計画を立てる
ことが不可欠です。
行動の呼びかけ
節税の成否は、知識と計画、そして適切な専門家のサポートにかかっています。
もし現在の節税方法に不安があるなら、今すぐ税理士に相談し、自社に合った安全な節税プランを作りましょう。










