老後資金への不安が増す時代
老後の生活費は、誰にとっても避けて通れないテーマです。特に個人事業主や中小企業経営者の場合、会社員のように厚生年金が自動的に上乗せされるわけではなく、国民年金が中心になります。
加えて、老後に向けて加入している生命保険や医療保険も、「もしものとき」の保障がメインであり、生活費を直接支えるものではありません。
一方で、平均寿命は伸び続け、インフレによる生活費上昇や医療・介護費の増大も現実化しています。このような環境の中で、国民年金と保険だけで本当に老後は安心なのかという疑問が強まっています。
年金と保険の現状を冷静に見直す必要性
公的年金の支給額と生活費の差
国民年金の満額は、年間およそ82万円(月額約6.8万円)。
しかし、総務省の家計調査によると、高齢夫婦世帯の平均生活費は月23万円前後であり、単純計算でも毎月15万円ほどの不足が生じます。
項目 | 金額(月額) |
---|---|
国民年金(満額) | 約6.8万円 |
平均生活費 | 約23万円 |
不足額 | 約15万円 |
この不足分は、貯蓄や私的年金、投資などで補う必要があります。
保険は「備え」であって「収入」ではない
生命保険・医療保険・個人年金保険などは、病気や死亡、入院といったリスクに備えるものであり、日々の生活費をまかなう収入源にはなりません。
例えば個人年金保険は、契約内容によっては月5万円程度の給付しかなく、生活全般を支えるには不足します。
老後に必要な3つの視点
老後の生活資金を安定させるには、次の3つの視点をバランス良く取り入れることが重要です。
- 公的年金の最大化
- 任意加入や付加年金などで将来の受給額を増やす工夫
- 私的資産形成
- iDeCo、小規模企業共済、つみたてNISA、不動産投資などを活用
- 収入源の多角化
- セカンドキャリア、副業、事業継続による収入確保
これらを組み合わせることで、年金と保険の不足分を補うことができます。
公的年金を最大限活用する方法
国民年金の基本
- 加入対象:20歳以上60歳未満のすべての日本国内居住者
- 保険料:月額16,980円(令和6年度)
- 受給条件:原則10年以上の納付期間
- 満額受給:40年間(480カ月)納付
年金額を増やす具体策
- 付加年金
月400円の追加で、将来「200円×納付月数」が上乗せされます。 - 国民年金基金
老後の上乗せ年金。掛金は全額所得控除。 - 任意加入制度
60歳以降も最大65歳まで加入して納付期間を延ばせます。
保険の役割と限界を知る
老後資金対策としての保険の種類
- 終身保険:死亡保障+貯蓄機能。保険料が高め。
- 個人年金保険:老後資金用だがインフレに弱い。
- 医療保険:医療費補填に有効だが生活費は補えない。
保険の限界
- インフレによる実質価値の低下
- 長期契約による支払い負担
- 途中解約による元本割れリスク
なぜ年金と保険だけに頼るのは危険なのか
長寿化による生活費の増加
日本の平均寿命は男性81歳、女性87歳を超え、90歳以上まで生きる人も珍しくありません。
もし65歳で退職し、90歳まで生きるとすると25年間の生活費が必要になります。
毎月20万円必要だと仮定すれば、総額は6,000万円にも達します。
インフレによる実質価値の低下
仮に年2%のインフレが20年間続くと、今の100万円は実質67万円程度の価値に下がります。
年金や保険給付は多くが固定額のため、物価上昇に追いつけません。
医療・介護費の負担増
高齢期は医療費や介護費が増える傾向にあります。
公的保険で一部カバーできても、
- 差額ベッド代
- 介護サービスの自己負担
- 住宅改修費用
などは自己負担となり、老後資金を圧迫します。
老後資金準備の具体例
ここからは、個人事業主や中小企業経営者が実践しやすい老後資金準備策を紹介します。
1. 共済制度の活用
- 小規模企業共済
廃業・引退時に退職金のように受け取れる制度。掛金は全額所得控除。 - 国民年金基金
老後の上乗せ年金。掛金は全額所得控除で税負担軽減。
項目 | 国民年金基金 | 小規模企業共済 |
---|---|---|
主な目的 | 老後の年金上乗せ | 廃業・退職時の資金 |
掛金 | 月68,000円まで | 月1,000円〜70,000円 |
税制優遇 | 全額所得控除 | 全額所得控除 |
受取方法 | 年金形式 | 一時金・分割可 |
2. iDeCo(個人型確定拠出年金)
- 掛金は全額所得控除
- 運用益は非課税
- 60歳以降に年金または一時金として受け取り
- 途中引き出し不可のため、長期資金に向く
3. つみたてNISA
- 運用益が最長20年間非課税
- 年間投資上限40万円(毎月33,333円)
- インデックスファンド中心に長期・分散投資が可能
4. 不動産投資
- 家賃収入を老後の生活費に充当可能
- 減価償却による節税効果
- 空室リスクや修繕費用への備えが必要
複数手段を組み合わせたモデルケース
例えば50歳の個人事業主が65歳までの15年間で準備する場合:
手段 | 毎月の積立額 | 年間積立額 | 税制優遇 |
---|---|---|---|
小規模企業共済 | 30,000円 | 36万円 | 所得控除 |
iDeCo | 23,000円 | 27.6万円 | 所得控除+運用益非課税 |
つみたてNISA | 33,333円 | 40万円 | 運用益非課税 |
合計 | 86,333円 | 103.6万円 | — |
運用益も加味すると、15年後には1,000万円以上の資産形成が可能です。
今から始める老後資金準備のステップ
ステップ1:現状を把握する
まずは自分の年金見込み額や現在の貯蓄額を明確にします。
- **「ねんきんネット」**で将来の受給額を確認
- 現在の生活費と老後の想定生活費を比較
- 年間・月間で不足する金額を算出
ステップ2:不足額を埋める計画を立てる
不足額が年間120万円なら、15年間で1,800万円の準備が必要です。
この金額をどの制度・商品でカバーするかを決めます。
例:年間120万円の不足を15年で準備する場合
手段 | 毎月積立額 | 年間積立額 | 税制優遇 |
---|---|---|---|
小規模企業共済 | 30,000円 | 36万円 | 全額所得控除 |
iDeCo | 23,000円 | 27.6万円 | 全額所得控除+運用益非課税 |
つみたてNISA | 33,333円 | 40万円 | 運用益非課税 |
ステップ3:保険を見直す
老後に不要な保障を減らし、浮いた保険料を資産形成に回します。
- 子ども独立後の死亡保障は減額
- 医療保険は高額療養費制度を前提に必要最低限
- 外貨建てや貯蓄型保険はコスト・為替リスクを確認
ステップ4:収入源を確保する
セカンドキャリアや副業で収入を得られれば、資産の取り崩しを遅らせられます。
- 顧問・コンサルなど経験を活かす仕事
- 在宅ワークやオンライン事業
- 資産運用からの配当収入
ステップ5:定期的に見直す
インフレや制度改定、運用状況に応じて柔軟に調整します。
- 年1回の資産棚卸し
- 制度改正時の掛金や運用商品の見直し
- ライフステージの変化に応じた保障内容の調整
老後資金は「3つの視点」でバランス良く
国民年金と保険は大切な基盤ですが、それだけに依存するのは危険です。
長寿化や物価上昇、医療介護費の増加といった現実を踏まえ、
**「公的年金の最大化」「私的資産形成」「収入源の確保」**という3つの視点を組み合わせることが、安心した老後につながります。
早く始めるほど負担は軽く、成果は大きくなります。
「今から準備を始める」という一歩が、将来の安心を生み出します。