企業経営における在庫と税金の関係
多くの中小企業や個人事業主にとって、在庫管理は日常業務の一部です。しかし、単なる「商品管理」だと考えていると、大きな落とし穴があります。在庫の持ち方や評価方法によって、税金額が変わることをご存じでしょうか。
実は、棚卸資産は決算時の利益計算に直結するため、評価の仕方ひとつで課税額に大きな影響を与えます。言い換えれば、在庫の評価を工夫することで、節税につなげることができるのです。
経営者にとって「利益を上げること」と「税金を抑えること」は両立させたいテーマです。棚卸資産の見直しは、この2つを同時に改善できる可能性を秘めています。
見直しが必要となる背景
では、なぜ棚卸資産評価を見直す必要があるのでしょうか。主な理由は以下の通りです。
- 利益と課税額の変動が大きい
棚卸資産の評価額が高くなると、当期利益が増え、その分法人税や所得税の課税額も増加します。 - 在庫の劣化・陳腐化のリスク
長期滞留した在庫は市場価値が下がり、実態と乖離した評価を続けていると、不要に高い税負担を背負うことになります。 - 資金繰りへの影響
実際にはキャッシュが動いていないにもかかわらず、在庫評価のために「利益が出ている」と見なされ、納税資金の確保に苦労するケースもあります。
これらの理由から、棚卸資産評価を適切に見直すことは、節税だけでなく経営安定化の観点からも欠かせない取り組みとなります。
節税につながる結論の方向性
結論から言えば、棚卸資産評価を見直すことで、**「実態に即した評価」を行い、「適法な方法で評価額を抑える」**ことが節税のカギとなります。
具体的には以下のような手法があります。
- 低価法を活用し、時価が下落した在庫を適切に評価する
- 棚卸資産の評価方法を「総平均法」や「移動平均法」から自社に有利な方法へ変更する
- 滞留在庫や不良在庫を棚卸から外し、評価損として計上する
- 棚卸資産の区分を細かく見直し、課税対象を適正化する
これらはいずれも税務上認められた手法であり、違法な「脱税」ではなく、正しい「節税」として実行できます。
棚卸資産評価が節税につながる理由
では、なぜ棚卸資産評価を見直すことで節税が可能になるのでしょうか。その理由を整理してみましょう。
1. 在庫評価は利益計算の要素である
損益計算書において、売上原価は以下の計算式で算出されます。
売上原価 = 期首棚卸資産 + 当期仕入高 − 期末棚卸資産
ここでポイントとなるのが期末棚卸資産です。この金額が大きくなればなるほど売上原価が減り、結果的に利益が増えます。逆に、期末棚卸資産が低くなれば、売上原価が増え、利益が減少します。
つまり、在庫の評価は「利益」と「課税額」に直結しているのです。
2. 時価と帳簿価額の差を反映できる
市場価格が下落した商品を帳簿上で高く評価し続けると、実態に合わない「見かけの利益」が生まれてしまいます。低価法などを用いて適正に評価し直すことで、余分な利益を抑え、税金も軽減されます。
3. 税務上の選択肢が認められている
棚卸資産評価には複数の方法があり、企業はその中から自社に合った方法を選択できます。これを適切に活用することが、正しい節税につながるのです。
具体的な節税方法|棚卸資産評価の見直し手法
棚卸資産評価を見直すといっても、単なる数字の調整ではなく、税務上正しく認められた方法を活用することが重要です。ここでは、実際に中小企業や個人事業主でも実践できる代表的な手法を解説します。
低価法の活用で評価額を抑える
低価法とは
低価法とは、在庫の帳簿価格と時価(市場価格)を比較し、低い方の価格で評価する方法です。市場価格が大きく下がっている場合、帳簿価額のまま計上すると実態とかけ離れた評価となり、余分な利益が発生してしまいます。
節税効果のポイント
- 商品価値が下がった分を「評価損」として認識できる
- 実際の市場価格に即した評価となるため、利益が適正化される
- 期末に在庫が多い業種(小売業・製造業など)で特に効果的
棚卸資産評価方法の選択と変更
棚卸資産の評価方法には、主に以下のものがあります。
| 評価方法 | 特徴 | 向いている業種 |
|---|---|---|
| 総平均法 | 仕入単価を平均化して評価 | 在庫の種類が多く、価格変動が激しい業種 |
| 移動平均法 | 仕入のたびに平均単価を更新 | 継続的に仕入がある業種 |
| 先入先出法 | 先に仕入れた商品から出庫したとみなす | 鮮度管理が必要な商品(食品など) |
| 個別法 | 実際の仕入原価で評価 | 高額商品や一点ものを扱う業種 |
節税につなげる工夫
- 仕入価格が上昇傾向にある場合 → 先入先出法を選ぶと、古い安い価格で原価を計上でき、利益を抑えられる。
- 仕入価格が下落傾向にある場合 → 総平均法や移動平均法で評価すると、原価が高めに算出され、利益を抑制できる。
※評価方法の変更には税務署への届出が必要ですので、事前準備が大切です。
滞留在庫・不良在庫の処理
長期間売れ残っている在庫や、破損・品質劣化で販売できない在庫をそのまま評価するのは得策ではありません。
- 滞留在庫:数年間売れ残っている商品は、販売可能性が低下しているため評価損を計上できる
- 不良在庫:破損・汚損で販売できないものは廃棄処理し、損失として計上可能
これにより、無駄な在庫を処理しつつ、節税効果を得られます。
棚卸資産の区分を見直す
棚卸資産は「商品」「製品」「仕掛品」「原材料」などに区分されますが、分類の仕方によっては評価が不適切になる場合があります。
たとえば、原材料が市場価値を大きく下げているのに「仕掛品」として高く評価されているケースなどです。
- 区分を正しく見直すことで、実態に沿った評価が可能
- 適切な科目への振替によって課税額を抑えることができる
棚卸資産評価を見直す際の注意点
節税のために棚卸資産評価を見直す場合、注意すべき点もあります。
- 正当な理由が必要
税務上は「評価損を計上する合理的根拠」が求められます。単に節税のために数字を操作することは認められません。 - 会計処理の一貫性
評価方法を頻繁に変更すると税務調査で疑念を持たれる可能性があります。継続的に同じ方法を用いることが基本です。 - 届出の有無を確認
評価方法の変更は「所得税法施行令第62条」や「法人税法施行令第69条」に基づき、所轄税務署長への届出が必要です。
実際の企業事例|棚卸資産評価の見直しが節税につながったケース
棚卸資産評価の見直しは机上のテクニックではなく、現実の経営に大きな効果をもたらします。ここでは、中小企業や個人事業主が実際に取り入れて成功した事例を紹介します。
ケース1:小売業における滞留在庫の処理
地方でアパレルショップを運営する企業では、シーズンごとに仕入れた洋服の在庫が売れ残り、翌期以降も倉庫に滞留していました。
- 従来の処理:帳簿上は仕入価格のまま在庫計上
- 見直し後:実際の販売可能価格に基づいて低価法で評価し、滞留在庫については評価損を計上
結果として、当期の利益を大幅に圧縮でき、税負担を軽減しながらも在庫の回転率改善につながりました。
ケース2:製造業における仕掛品評価の適正化
部品製造を行う中小企業では、仕掛品の評価を「原価計算上の見積」で行っていましたが、材料価格の下落により、実態よりも高い評価額で計上されていました。
- 見直し後:材料部分を市場価格で再評価し、仕掛品評価額を引き下げ
- 効果:過大に計上されていた利益が是正され、法人税額の減少につながった
さらに、仕掛品評価を見直す過程で「どの工程で資金が滞留しているか」も可視化され、資金繰り改善にも寄与しました。
ケース3:飲食業での不良在庫廃棄の適正処理
飲食業を営む個人事業主では、賞味期限切れの食材を在庫に含めたまま計上していました。
- 従来の問題点:販売できない在庫を資産計上 → 利益が膨らんで税負担増
- 改善策:期限切れ食材を廃棄処理し、その分を損失計上
結果として、正しい会計処理が行われ、税額を抑えると同時に、在庫管理の精度が向上しました。
ケース4:卸売業での評価方法変更
ある卸売業者は、長年「総平均法」で評価を行っていました。しかし、近年は仕入価格が下落傾向にあり、総平均法では原価が高めに出てしまっていました。
- 対応策:評価方法を「移動平均法」に変更(税務署への届出済み)
- 効果:原価が現実に近い形で算定され、在庫評価額の適正化 → 利益圧縮 → 法人税の節税
さらに、評価方法の見直しに伴い、在庫管理システムも刷新され、経営判断のスピードが上がる副次的効果も得られました。
成功事例から学べるポイント
事例を通じて見えてくるのは、棚卸資産評価の見直しは単なる節税にとどまらず、経営改善の一環として機能するということです。
- 不良在庫を処理 → 資金効率の向上
- 仕掛品の適正評価 → コスト管理の精度アップ
- 評価方法変更 → 会計数値の信頼性向上
つまり、節税と同時に「資金繰り改善」や「経営判断の迅速化」といった副次的メリットを得られる点が大きな特徴です。
経営に与える効果|節税と資金繰りの両立
棚卸資産評価の見直しは、単なる「節税テクニック」にとどまりません。資産の評価額は貸借対照表や損益計算書に直結し、さらに資金繰りや銀行融資の審査にも影響を与えます。ここでは、経営全体に及ぼす効果を整理します。
節税効果の直接的なメリット
- 在庫評価を見直すことで、利益を圧縮 → 法人税・所得税の負担軽減
- 適正な評価により、不要な課税リスク(過大申告や否認リスク)を回避
- 評価損を計上することで、赤字転換して翌期以降に繰越控除が可能になるケースも
資金繰り改善への波及効果
- 不良在庫の廃棄で倉庫費用や管理コストを削減
- 評価方法の見直しにより、現金化可能な在庫の把握が容易に
- 在庫回転率の改善が進み、仕入資金の循環がスムーズに
銀行融資へのプラス効果
銀行は融資審査の際、貸借対照表に計上されている「棚卸資産」の内容を必ずチェックします。
- 適正評価 → 財務内容の透明性が高まり、信頼性がアップ
- 在庫管理が精緻 → 経営管理能力の高さを示すアピール材料に
結果として、融資審査で有利に働き、資金調達力の向上につながります。
税務調査リスクの低減
税務調査では「棚卸資産評価」は必ず確認されるポイントです。
- 過大評価 → 利益が膨らみ、納税過多(税務署は特に問題視しないが損)
- 過少評価 → 利益圧縮とみなされ、否認リスク(追徴課税の対象)
適切に評価方法を選択・届出している場合は、税務調査でも安心して説明できます。
実践に向けたステップ|すぐできる取り組み方
では、実際に自社で棚卸資産評価の見直しを進めるには、どのようなステップを踏めばよいのでしょうか。
ステップ1:在庫状況の棚卸精度を高める
- 定期的に棚卸を行い、実在庫と帳簿残高を照合
- 滞留品・不良在庫を明確に区分
- 在庫管理システムの導入を検討
ステップ2:評価方法を確認・選択する
- すでに届出済みの評価方法を確認(税務署への届出書控えを確認)
- 現状に合わない場合は「評価方法変更届出書」の提出を検討
- 税理士に相談し、適切な方法をシミュレーション
ステップ3:低価法や評価損の計上を検討
- 市場価値の下落がある在庫については低価法を適用
- 実際に販売できない在庫は評価損を計上し、資産計上から外す
- 根拠資料(市場価格データ、販売実績、廃棄記録)を残す
ステップ4:金融機関への説明準備
- 在庫評価の見直し結果を経営計画や資金繰り表に反映
- 銀行に対して「適正な評価で財務内容を改善した」ことをアピール
- 資金調達の交渉で有利に働かせる
ステップ5:定期的な見直しを継続
- 一度の評価変更で終わりにせず、毎期の決算で適正か再チェック
- 経営環境の変化(仕入価格の変動、業種特性の変化)に合わせて調整
まとめ|節税と経営改善を同時に実現する視点
棚卸資産評価の見直しは、単なる節税対策にとどまらず、資金繰りや融資、経営判断の改善に直結します。
- 節税効果 → 法人税・所得税の負担軽減
- 資金繰り改善 → 在庫回転率の向上、仕入資金の効率化
- 経営改善 → 銀行からの信頼性向上、税務調査リスクの低減
経営者にとって「在庫」は単なる数字ではなく、キャッシュフローに直結する重要な要素です。適切な評価と運用を行うことで、節税と経営改善を同時に達成できるでしょう。
次に取るべき行動
この記事を読んだ読者が、すぐに取り組めるアクションを整理します。
- 自社の在庫評価方法を確認する
- 滞留在庫・不良在庫を洗い出す
- 税理士に相談し、評価方法変更や低価法適用を検討する
- 在庫管理システムを導入して精度を高める
- 銀行融資の際に在庫評価を経営改善のアピール材料とする
これらを一歩ずつ実践すれば、節税効果を得ると同時に、資金繰りや経営の安定性も強化できます。

