役員借入金を活用した節税と資金管理の実践ガイド|中小企業のための活用法

役員借入金をテーマにしたイラスト。書類、本、左右の円記号、表情のある男性役員などが描かれている。
目次

中小企業における資金繰りの現実

会社経営をしていると、売上の増減や仕入・支払のタイミングによって、資金が一時的に不足することがあります。銀行融資を利用できれば理想的ですが、必ずしもスムーズに借りられるとは限りません。そこで、多くの中小企業で活用されているのが「役員借入金」です。
これは、会社の役員(社長や取締役など)が自分の資金を会社に貸し付ける仕組みを指します。手続きがシンプルで、銀行融資に比べて柔軟に資金を調達できる点が魅力です。

さらに、単なる資金調達手段にとどまらず、適切に管理することで「節税」にもつながる可能性があります。しかし、そのためには仕組みを正しく理解し、ルールに沿った運用が欠かせません。

役員借入金が経営に与える影響

役員借入金は、資金繰りを安定させるうえで重要な役割を果たします。例えば、月末の支払いに間に合わせるために社長が一時的に資金を貸すケースや、新規事業の立ち上げ時に自己資金を投入するケースです。これにより、取引先や従業員への支払いが滞らず、会社の信用を守ることができます。

ただし、役員借入金はあくまで「借入金」であり、会社の貸借対照表上は負債として計上されます。返済の有無や利息の扱いを適切に管理しないと、税務上のリスクが生じることもあるため注意が必要です。

節税につながる役員借入金の仕組み

経営者が役員借入金を有効に活用すれば、資金繰りだけでなく節税にも効果があります。例えば、以下のような場面です。

  • 役員借入金を元にした利息の調整
    会社が役員に利息を支払う場合、その利息は会社の「経費」として処理できます。結果として法人税の課税所得を圧縮することが可能です。
  • 資金繰り改善と節税の両立
    返済の時期や方法を工夫することで、会社の資金繰りを助けつつ、会計処理上もバランスを保つことができます。
  • 決算対策としての活用
    決算期に赤字・黒字の状況を見極めながら、役員借入金を利用することで法人税額のコントロールに役立つ場合があります。

このように、役員借入金は単なる一時的な資金繰りの手段にとどまらず、税務戦略の一部として組み込むことができるのです。

注意しないと税務リスクになるケース

一方で、役員借入金の管理を曖昧にしてしまうと、思わぬ税務リスクを抱えることになります。例えば、次のようなケースです。

  • 契約内容や返済計画を明確にしていない場合
    税務調査で「実質的には返済不要の資金提供」とみなされ、資本金と判断される恐れがあります。
  • 利息の取り扱いを誤る場合
    過大な利息設定は、役員への利益供与と判断されることがあり、否認されるリスクがあります。逆に、適正利率以下だと「みなし利息」として課税されることもあります。
  • 返済が全く行われない場合
    貸借の実態がないと認定されれば、経費処理の否認や役員報酬とみなされる可能性もあります。

したがって、節税の観点で役員借入金を使う場合には、必ず「正しい契約」と「会計処理の適正さ」が求められるのです。

役員借入金を戦略的に活用する結論

役員借入金は、資金繰りの安定化と節税対策の両方を実現できる有効な手段です。特に中小企業や個人事業主にとっては、銀行融資に比べて柔軟性が高く、即時に利用できるメリットがあります。
結論としては、「役員借入金を単なる一時的な資金繰り対策にとどめず、正しく管理し、節税効果を最大限に活用する」 ことが重要です。

そのためには以下の3点がポイントになります。

  1. 契約書・返済計画を必ず作成し、形式を整える
    税務調査で否認されないためには、書面での裏付けが欠かせません。
  2. 利息の設定を適正に行い、法人税の節税に役立てる
    過大・過少を避け、国税庁が示す利率を参考にします。
  3. 返済の実行と会計処理を徹底し、信頼性を高める
    「実態のある借入金」であることを示すことで、節税効果を守れます。

この3つを守れば、役員借入金は経営にとって非常に有効な武器となるのです。


なぜ役員借入金が節税につながるのか

ここからは、その理由を深掘りしていきます。

1. 役員借入金は「負債」として扱える

役員借入金は、会社にとっては役員からの「借金」です。そのため、貸借対照表では負債に計上されます。借入金として扱えることで、資本金や剰余金とは区別され、税務上の処理にも明確さが生まれます。

2. 利息を「損金」として計上できる

会社が役員に対して利息を支払う場合、その利息は経費(損金)として計上できます。損金が増えることで課税所得が減り、結果として法人税の節税につながります。
ただし、支払う利息は適正水準でなければなりません。国税庁が発表している「法定利率」や「市中金利」を参考にする必要があります。

法人が支払利息を経費にできるメリット

  • 利益が圧縮され、法人税負担が軽くなる
  • 実質的には自分の資金に利息を付けて戻している構図となるため、資金効率が上がる
  • 銀行借入を減らすことで利息支払いを外部に流出させず、社内に留められる

3. 借入金の返済は「損金不算入」だが資金繰りに効果大

役員借入金の返済そのものは経費になりませんが、会社にとっては大きなキャッシュアウトとなります。
逆に言えば、返済タイミングを調整することで資金繰りをコントロールできます。資金に余裕があるときに返済を進めればバランスシートが健全化し、資金不足のときには返済を待ってもらうなど、柔軟に対応できるのです。

4. 決算対策として有効に働く

決算直前に赤字が予想される場合、役員借入金を返済しても税務的な不利益はありません。逆に黒字が大きい場合には、役員借入金に利息を付けて損金算入することで、法人税の負担を軽減できます。
つまり、「決算状況に応じて役員借入金を調整する」 ことで、法人税の最適化に役立ちます。

役員借入金を活用した節税と資金繰りの具体例

ケース1:銀行融資が難しい創業期の中小企業

創業期の中小企業は、信用力が乏しく銀行からの融資が難しい場合があります。
このようなときに、経営者が自分の資金を役員借入金として会社に貸し付けることで、運転資金を確保できます。

  • メリット
    • 即時に資金調達できる
    • 利息を設定すれば損金算入できる
    • 外部への利息支払いを抑えられる
  • 注意点
    • 書面を必ず作成する(借入契約書・返済計画表)
    • 過大な利息を設定しない

創業期は資金繰りが不安定になりがちですが、役員借入金を適切に活用すれば、事業を軌道に乗せるまでの大きな支えになります。


ケース2:黒字が大きく法人税の負担が重い場合

会社の業績が好調で大きな黒字が見込まれるとき、法人税負担が重くのしかかります。
このような場合、役員借入金に利息を付けることで損金算入が可能となり、法人税を圧縮できます。

シミュレーション例

  • 借入金残高:1,000万円
  • 設定利率:1.0%(市中金利に基づく)
  • 支払利息:年間10万円

この10万円は法人にとって損金となり、課税所得を圧縮します。
さらに支払利息は役員個人に「利子所得」として入りますが、総合課税の対象外で20.315%の源泉分離課税のみ。
つまり、法人の節税効果と個人の所得分散を同時に実現できるのです。


ケース3:資金繰りを柔軟にコントロールしたい場合

役員借入金は「返済期限」をある程度柔軟に設定できます。
銀行借入と異なり、経営状況に応じて返済を待ってもらうことも可能です。

  • 資金が潤沢なとき → 返済を進めて貸借対照表を健全化
  • 資金が不足しているとき → 返済を猶予してキャッシュを確保

この柔軟性こそが、資金繰り管理における役員借入金の大きな強みです。


ケース4:相続・事業承継対策としての活用

役員借入金は「役員への返済義務」として会社に残ります。
そのため、経営者が亡くなった場合、相続財産として債権が発生します。

  • プラス効果:会社の資金繰り改善に役立つ
  • マイナス効果:相続財産が増えて相続税負担につながる

この場合は「役員借入金を減資に振り替える」「役員報酬として徐々に返済する」などの方法で対策が可能です。
事業承継を見据えた中長期的なプランニングが求められます。


ケース5:個人の節税と組み合わせる活用

経営者個人が役員借入金の返済を受けた場合、それは「元本返済」なので所得税はかかりません。
つまり、個人にとっては非課税で資金を取り戻せる仕組みです。

一方で、法人は返済をしても損金計上はできませんが、資金繰り改善の観点から見れば「借入金を圧縮できる」メリットがあります。

このように法人と個人の両面から考えると、役員借入金は「資金の出口戦略」としても優秀な選択肢となります。

役員借入金を活用するための実践ステップ

ステップ1:契約書を必ず作成する

役員借入金は「経営者が会社にお金を貸す」というシンプルな仕組みですが、税務署に対しては第三者間取引と同様に書面での証拠が必要です。
借入契約書に盛り込むべき内容

  • 借入金額
  • 借入日
  • 利率(市中金利を基準に適正設定)
  • 返済期限
  • 返済方法(分割・一括など)

契約書を残すことで、税務調査時に「実態のある借入」と認められやすくなります。


ステップ2:利率設定を適正に行う

役員借入金に利息をつける場合、市中金利(例:銀行の短期貸出金利)を参考にすることが重要です。
極端に低い利率では節税効果が薄れ、逆に高すぎる利率では「過大役員報酬」と判断されるリスクがあります。

👉 目安としては 0.5~1.5%程度 が現実的な水準といえます。


ステップ3:返済計画を立てる

返済が長期間滞ると「実質的には返済不要の資金ではないか」と見られる恐れがあります。
以下のような計画を立て、社内で管理しておきましょう。

  • 毎月一定額を返済する
  • 決算期に利益が出たタイミングで返済する
  • 返済を見直す場合は理事会や株主総会の議事録を残す

ステップ4:資金繰りと合わせて運用する

役員借入金は「節税」と「資金繰り」の両方を目的に使えます。
実際の運用では次の視点が欠かせません。

  • 黒字 → 利息設定で法人税を圧縮
  • 資金不足 → 返済猶予でキャッシュ確保
  • 相続対策 → 借入金を減資や報酬に振り替え

単なる資金調達手段ではなく、資金管理全体の戦略として組み込むことがポイントです。


ステップ5:専門家と連携する

役員借入金は便利な仕組みですが、税務リスクや相続への影響もあるため、税理士や会計士のサポートを受けながら進めるのが安心です。
特に以下の場合は必ず専門家に相談してください。

  • 多額の役員借入金を計上している
  • 利率をつけて法人税の節税を狙いたい
  • 相続や事業承継を視野に入れている

まとめ

役員借入金は、

  • 銀行融資が難しいときの資金調達
  • 法人税の圧縮
  • 柔軟な資金繰り
  • 相続・事業承継対策

といった多様な目的で活用できる強力なツールです。
ただし「契約書を残す」「利率を適正にする」「返済計画を明確にする」などの基本ルールを守らなければ、節税効果が無効化されたり税務リスクにつながることもあります。

正しく活用すれば、法人と経営者個人の双方にとってメリットの大きい資金管理の武器となるでしょう。

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