法人保険の経費処理は「契約内容」で変わる
法人が加入する生命保険や医療保険は、節税や資金準備、福利厚生など多様な目的で活用されます。
しかし、保険料を経費にできるかどうかは、契約形態・受取人・保険種類によって大きく異なります。
同じ保険料でも、仕訳や勘定科目を間違えると経費として認められなかったり、税務調査で修正を求められたりすることがあります。
経費にできる場合とできない場合の違い
法人保険の保険料は、次の要素によって損金算入(経費化)の可否が決まります。
- 保険種類(定期保険、終身保険、養老保険など)
- 保険金受取人(法人か個人か)
- 契約目的(退職金準備、事業保障、福利厚生など)
- 税法上の損金算入割合(全額損金、一部損金、一部資産計上など)
たとえば、全額損金にできる契約もあれば、保険料の半分を資産計上しなければならない契約もあります。
法人保険の損金算入パターンと仕訳
法人保険の会計処理は大きく分けて3パターンあります。
パターン | 損金算入割合 | 主な契約例 | 勘定科目例 |
---|---|---|---|
全額損金 | 100% | 定期保険、医療保険(受取人=法人) | 保険料、福利厚生費 |
一部損金 | 50%損金+50%資産計上 | 長期平準定期、逓増定期 | 保険料(損金部分)、長期前払費用(資産部分) |
資産計上 | 0%損金 | 養老保険(受取人=法人)、退職金準備型終身保険 | 保険積立金 |
全額損金の仕訳例
例:役員死亡保障のための定期保険(受取人=法人)
- 保険料支払時
コピーする編集する(借方)保険料 100,000 /(貸方)現金預金 100,000
勘定科目は「保険料」や「福利厚生費」が一般的です。
一部損金の仕訳例
例:長期平準定期保険(損金50%・資産50%)
- 保険料支払時
コピーする編集する(借方)保険料 50,000
(借方)長期前払費用 50,000 /(貸方)現金預金 100,000
決算時に資産部分を繰り延べ処理します。
資産計上の仕訳例
例:満期保険金を法人が受け取る養老保険
- 保険料支払時
コピーする編集する(借方)保険積立金 100,000 /(貸方)現金預金 100,000
損金にはできず、資産として積み上がります。
経費処理の可否が重要な理由
1. 税務調査での指摘リスク
保険料の会計処理は税務署がチェックしやすい項目です。受取人や契約目的が経費計上の条件に合っていない場合、損金不算入として修正申告が必要になることがあります。
2. キャッシュフローへの影響
損金にできる割合によって法人税の負担が変わります。経費化できると思って契約した保険が実は資産計上だった場合、当期の税額が想定以上に増える可能性があります。
3. 経営判断の誤り防止
保険の本来の目的(保障や資金準備)と節税効果のバランスを正しく理解しないと、不要に高額な保険契約を結んでしまうリスクがあります。
契約タイプ別の勘定科目の選び方と注意点
1. 定期保険(全額損金)
- 主な目的:経営者や役員、キーマンの死亡保障
- 受取人:法人
- 会計処理:全額損金処理可能
- 勘定科目例:「保険料」「福利厚生費」「役員保険料」
- 注意点:契約目的が明確でない場合、福利厚生費として処理するよりも「保険料」で統一したほうが税務上の説明が容易
2. 医療保険・就業不能保険(全額損金)
- 主な目的:従業員や役員の入院・療養補償
- 受取人:法人または従業員本人
- 会計処理:全額損金処理可能
- 勘定科目例:「福利厚生費」「保険料」
- 注意点:全社員を対象にしないと福利厚生費として認められない場合があるため、対象範囲を明確に
3. 長期平準定期保険(50%損金)
- 主な目的:退職金準備・事業保障
- 受取人:法人
- 会計処理:保険料の50%を損金、50%を長期前払費用として資産計上
- 勘定科目例:「保険料(損金部分)」「長期前払費用(資産部分)」
- 注意点:年度ごとに資産部分の繰延処理が必要
4. 逓増定期保険(契約条件による損金割合)
- 主な目的:成長期の事業保障・資金準備
- 受取人:法人
- 会計処理:契約条件によって損金割合が異なる(例:40%損金+60%資産)
- 勘定科目例:「保険料」「長期前払費用」
- 注意点:税制改正により損金算入割合が変わりやすい
5. 養老保険(資産計上)
- 主な目的:退職金や事業承継資金の積立
- 受取人:法人
- 会計処理:全額資産計上(損金算入不可)
- 勘定科目例:「保険積立金」
- 注意点:資産計上のため当期の節税効果はないが、解約や満期で資金化できる
実務上のよくある間違いと改善策
間違い1:受取人の設定ミス
受取人が経営者個人になっていると、保険料が経費として認められないケースが多い。
改善策:契約時に必ず受取人を法人に設定し、契約目的と一致させる。
間違い2:勘定科目の統一ができていない
同じ種類の保険料を「福利厚生費」と「保険料」で混在処理してしまうと、税務調査で説明が難しくなる。
改善策:社内で勘定科目の使用ルールを統一。
間違い3:損金割合の誤適用
契約内容を確認せずに全額損金処理してしまい、後から否認されるケース。
改善策:契約書・設計書で損金割合を確認し、税理士と共有。
事例で学ぶ仕訳の実務
事例1:全額損金型
- 契約:役員死亡保障の定期保険(保険料:月額5万円)
- 仕訳例:
コピーする編集する(借方)保険料 50,000 /(貸方)普通預金 50,000
事例2:一部損金型(50%損金)
- 契約:長期平準定期保険(保険料:月額10万円)
- 仕訳例:
コピーする編集する(借方)保険料 50,000
(借方)長期前払費用 50,000 /(貸方)普通預金 100,000
事例3:資産計上型
- 契約:養老保険(保険料:月額8万円)
- 仕訳例:
コピーする編集する(借方)保険積立金 80,000 /(貸方)普通預金 80,000
経費化を成功させるための行動ステップ
- 契約前に経費化の可否を確認
税理士・保険会社に相談して損金割合を確定させる。 - 受取人と契約目的の整合性を確保
受取人が法人であること、目的が業務関連であることを明確化。 - 社内ルールの統一
勘定科目と仕訳処理方法を統一して運用。 - 年度末に資産部分を精査
一部損金型は資産部分を繰延処理。 - 税制改正への対応
保険の損金割合は変わる可能性があるため、定期的に見直し。
まとめ
法人保険の経費処理は、契約内容・受取人・損金割合によって異なり、仕訳と勘定科目を正しく設定することが不可欠です。
誤った処理は税務リスクや資金計画の狂いを招くため、契約前から税理士と連携してルールを整え、定期的な見直しを行いましょう。