事業用資産の売却が節税につながる理由
中小企業や個人事業主にとって、保有している事業用資産(不動産、機械設備、車両など)の売却は単なる資金調達手段ではなく、節税戦略の一環としても大きな意味を持ちます。
売却益や売却損は会計上・税務上の処理によって課税所得に直結し、売却のタイミングを誤れば予想外の税負担を抱えることになりかねません。
一方で、適切なタイミングでの売却は税金の負担を抑え、キャッシュフローを改善する有効な手段になります。
なぜ売却タイミングが重要なのか
資産売却で生じる利益(譲渡益)は、原則として課税対象になります。
例えば、帳簿価格500万円の機械を1,000万円で売却した場合、500万円の売却益が発生し、その金額が課税所得に加算されます。
この利益を「どの年度に発生させるか」が大きなポイントです。
- 利益が多い年度に売却すると → 税率が高くなり税負担が増大
- 利益が少ない年度に売却すると → 低い税率で済み、節税効果が大きい
つまり、売却のタイミングは「どの年度の利益水準と組み合わせるか」で節税効果が変わるのです。
売却益と売却損のバランス
事業用資産の売却では、利益だけでなく損失も発生する可能性があります。
- 売却益 → 課税所得に加算される
- 売却損 → 経費として損金算入できる
売却損を意図的に出すことで、黒字を圧縮して税負担を抑える戦略もあります。
特に、老朽化した機械や使わなくなった備品を整理する際に、売却損を活用するのは実務上よく行われる節税手法です。
節税につながる資産売却の結論
事業用資産の売却は、以下のポイントを押さえたタイミングで行うことで節税につながります。
- 黒字が膨らむ年度は売却損を活用する
- 利益が少ない年度に売却益を計上する
- 決算期の直前に資産整理を行うことで調整可能
- 将来の設備投資計画と連動させる
このように、資産売却を「単なる処分」ではなく「戦略的な節税の一手」として考えることで、経営の安定性を高めることができます。
資産売却と税務上の扱いの基本
売却益の課税ルール
事業用資産を売却して得られた利益(売却益)は、法人の場合は法人税の課税所得に、個人事業主の場合は事業所得または譲渡所得に加算されます。
売却益の算出は以下の式で求められます。
売却価格 − 帳簿価額(取得価額 − 減価償却累計額) − 譲渡費用 = 売却益
例えば、1,000万円で購入した機械を7年間使用し、減価償却累計額が700万円の場合、帳簿価額は300万円です。
これを500万円で売却すれば、
500万円 − 300万円 = 200万円(売却益)
となり、この200万円が課税対象に含まれます。
売却損の節税効果
逆に、帳簿価額300万円の資産を200万円で売却した場合、
200万円 − 300万円 = ▲100万円(売却損)
となり、この100万円は損金として計上できます。
つまり、売却損は課税所得を減らす効果があり、黒字を圧縮することで法人税や所得税の節税につながります。
売却タイミングが税額に与える影響
利益が大きい年度と少ない年度の比較
売却益は「どの年度に発生させるか」で税額が変動します。
- 利益が多い年度に売却益を計上
→ 累進課税により税率が高くなり、節税効果は小さい - 利益が少ない年度に売却益を計上
→ 低い税率が適用され、結果的に税負担が軽減
シミュレーション
- 利益1,000万円の年度に200万円の売却益を計上
→ 課税所得1,200万円 × 実効税率30% = 税額360万円 - 利益300万円の年度に200万円の売却益を計上
→ 課税所得500万円 × 実効税率20% = 税額100万円
👉 同じ200万円の売却益でも、計上する年度によって税額が大きく変わることがわかります。
決算前の売却が持つ意味
資産売却のタイミングは「決算期の直前」に調整されることが多いです。
- 利益が出すぎている場合 → 不要資産を売却して損を計上
- 利益が少ない場合 → 将来の利益調整のために売却を翌期に回す
決算時点での利益を見ながら柔軟に調整できる点が、資産売却の大きなメリットです。
節税効果を高めるために意識すべき制度
1. 圧縮記帳の活用
固定資産を売却した資金で新しい資産を購入する場合、一定の条件を満たせば「圧縮記帳」が可能です。
これは売却益を新規資産の取得価額から差し引いて処理できる制度で、課税を将来に繰り延べることができます。
2. 特別償却や税額控除との組み合わせ
資産売却益が出ても、新規の設備投資に対して「中小企業経営強化税制」などの特例を適用することで、売却益を相殺できます。
3. 赤字繰越制度との相性
過去の赤字を繰り越している場合、売却益が発生しても繰越欠損金で相殺可能です。
→ 利益が急増する年度に資産を売却しても、実質的に課税されない場合があります。
売却タイミングが節税を左右する理由のまとめ
- 売却益は課税所得に加算されるため、計上年度によって税額が変わる
- 売却損は損金算入でき、黒字圧縮に役立つ
- 決算直前の調整や制度の活用により、節税効果を最大化できる
- 赤字繰越や圧縮記帳を併用することで、中長期的な税負担をコントロールできる
👉 売却タイミングは「年度の利益水準」「制度の利用状況」「将来の資金計画」を踏まえて決めることが不可欠です。
節税につながる資産売却のシミュレーション
ケース1:黒字圧縮のための資産売却
- 前提条件
- 年間利益:800万円
- 実効税率:30%
- 帳簿価額200万円の機械を100万円で売却(売却損100万円)
- 効果の試算
- 売却前:課税所得800万円 → 税額240万円
- 売却後:課税所得700万円 → 税額210万円
- 節税効果:30万円
👉 黒字を減らし、税負担を抑えつつ古い資産の整理もできる。
ケース2:利益が少ない年度に売却益を計上
- 前提条件
- 利益:300万円
- 帳簿価額200万円の土地を400万円で売却(売却益200万円)
- 実効税率:20%
- 効果の試算
- 課税所得:500万円 → 税額100万円
- 利益が大きい年度(1,000万円)に売却した場合との比較:
- 課税所得1,200万円 × 30% = 税額360万円
- 節税効果:60万円以上
👉 利益の少ない年度に売却すれば、同じ売却益でも負担は軽い。
ケース3:赤字繰越と売却益の相殺
- 前提条件
- 前年度赤字:300万円
- 当年度利益:200万円
- 機械売却益:200万円
- 効果の試算
- 当年度課税所得:200万円+200万円=400万円
- 赤字繰越300万円で相殺 → 課税所得100万円
- 実効税率20% → 税額20万円
👉 赤字繰越を活用すれば、売却益が出ても課税額を大幅に抑えられる。
実務での売却戦略パターン
1. 決算対策としての売却
決算期末に利益が大きく出ている場合、
- 不要資産を処分して損失を計上
- 税負担を抑えると同時に、資産のスリム化も可能
👉 特に「使っていない車両」「古い機械」は決算前の見直し対象。
2. 設備投資とセットで考える
売却と同時に新規資産を購入する場合、
- 圧縮記帳を利用して売却益を帳簿上で相殺
- 新規投資の即時償却特例を利用すれば、さらに課税所得を圧縮
👉 「売却 → 資金確保 → 新規投資」という流れを作ることで、成長戦略と節税を両立。
3. 資金繰りを重視した売却
資金不足時には、税負担よりもキャッシュインを優先する必要があります。
- 税金は増えても現金を確保できれば事業継続が可能
- 金融機関との関係を考えると、利益を適度に残すことも重要
👉 節税一辺倒ではなく、「資金」「信用」「成長」のバランスが大切。
4. 長期的な事業承継を見据えた売却
将来の事業承継やM&Aを考える場合、
- 事業承継時の株価評価を下げるために資産を早めに売却
- 利益調整だけでなく、後継者への負担軽減につながる
👉 「節税+事業承継対策」の観点で売却を検討することも有効。
シミュレーションから見える教訓
- 売却損は黒字圧縮に有効
- 売却益は利益が少ない年度に計上するのが理想
- 赤字繰越と組み合わせればさらに節税効果が大きい
- 売却は単なる処分ではなく、投資戦略・資金戦略の一部
👉 実務では「税金・資金・事業戦略」を同時に考えることが成功のカギです。
節税を意識した事業用資産売却のステップ
1. 資産状況の棚卸しを行う
- 使っていない設備や老朽化した資産をリスト化
- 帳簿価額(減価償却後の金額)を確認
- 売却益が出るか、売却損が出るかをシミュレーション
👉 売却前に資産の「簿価」と「実際の売却価格」の差を把握することが第一歩です。
2. 利益予測と連動させる
- その年度の利益が大きい場合 → 売却損を計上して黒字圧縮
- 利益が小さい場合 → 売却益を計上しても税率が低いため有利
- 赤字繰越がある場合 → 売却益を計上しても相殺できる可能性あり
👉 利益水準や赤字繰越の有無によって、売却の最適なタイミングは変わります。
3. 決算期との兼ね合いを確認
- 決算直前に売却すれば当期利益を調整可能
- 翌期に回すことで税率の低い年度に計上できる場合もある
👉 売却の「年度選び」が節税効果を大きく左右します。
4. 書類と税務処理を正確に行う
- 売却契約書や譲渡費用の領収書を必ず保管
- 会計処理:
- 売却益 → 「固定資産売却益」として益金算入
- 売却損 → 「固定資産売却損」として損金算入
- 圧縮記帳を使う場合は別途明細書を作成
👉 証拠書類が不十分だと、税務調査で否認されるリスクがあります。
実務での注意点
節税だけを目的にしない
- 税金を減らすためだけに資産を売却すると、事業運営に必要な資産まで失うリスクがある
- 節税効果よりも「資金繰り」「事業戦略」との整合性を優先すべき
税制改正リスクに備える
- 減価償却や圧縮記帳などの特例は法改正で変わる可能性あり
- 過去には法人保険や租税特別措置が改正された例も多い
👉 専門家と連携し、最新情報を常にキャッチアップしましょう。
金融機関の評価を考慮する
- 節税で利益を減らしすぎると「利益の出ない会社」と見られる恐れ
- 融資を予定している場合は、利益をある程度残して信用力を確保する必要がある
まとめ:資産売却を節税戦略に組み込む
- 資産売却は「黒字圧縮」「低税率年度への計上」「赤字繰越との相殺」によって節税につながる
- 決算前の調整や新規投資との組み合わせで効果を最大化できる
- 売却の判断は、税務・資金繰り・事業戦略の3つの視点を持つことが重要
👉 資産売却を「単なる処分」ではなく「経営の戦略ツール」として活用すれば、税負担を抑えつつ、健全な成長への資金を確保できます。

