フリーランスという働き方と見落としがちなリスク
フリーランスは、時間や場所に縛られない自由な働き方ができる点で、多くの人にとって魅力的な選択肢です。会社員と異なり、自分の裁量で仕事を選び、収入の上限も自分次第。しかしその一方で、会社員であれば当たり前に受けられる「保障」がないことを忘れてはいけません。特に、健康保険や労災保険、雇用保険といった公的制度から外れているため、病気やケガで働けなくなったときに 収入が途絶えるリスク を抱えています。
実際に、厚生労働省の調査でも「フリーランスの約7割が病気やケガで収入がなくなることに強い不安を抱えている」とされています。にもかかわらず、現状では保険未加入のまま活動しているフリーランスが多いのです。
保険未加入が招く3つの大きなリスク
では、具体的に保険未加入の状態で活動を続けると、どのようなリスクがあるのでしょうか。代表的なものは次の3つです。
① 収入途絶のリスク
フリーランスは労災や傷病手当の対象外であり、長期の休業に対する補償がありません。もし交通事故や大病で数か月仕事ができなくなれば、預貯金を切り崩す以外に生活手段がなくなります。これは単に生活費が払えないという問題だけでなく、事業そのものの継続が困難になる可能性も含んでいます。
② 医療費・入院費の自己負担
国民健康保険には加入しているものの、高額な医療費や長期入院に伴う費用は大きな負担になります。特に個室代や先進医療の費用は全額自己負担となるため、数百万円単位での出費が発生することも珍しくありません。
③ 老後資金・家族保障の不足
会社員であれば退職金制度や企業年金がありますが、フリーランスにはありません。国民年金だけでは老後の生活費が不足する可能性が高く、さらに遺族への保障も脆弱です。もし一家の大黒柱が働けなくなった場合、家族の生活にも大きな影響を及ぼします。
これらのリスクは「自分は健康だから大丈夫」と考えているうちは意識されにくいものの、実際に起こってからでは遅いのです。
フリーランスが直面する現実と失敗例
実際に、保険未加入のまま働き続けていたフリーランスが、突然の事故や病気で生活が困窮するケースは少なくありません。たとえば以下のような事例があります。
- デザイナーとして独立した30代男性が、交通事故で半年以上入院。収入がゼロになり、貯金も底をつき、事業を畳まざるを得なくなった。
- 子育てをしながら活動していた40代女性ライターが乳がんを発症。治療費がかさみ、生活費を工面するために借金を背負うことに。
こうしたケースは決して特別なものではなく、誰にでも起こり得るリスクです。フリーランスという立場は自由である一方、 「すべてのリスクを自分で引き受ける」 という現実があることを認識する必要があります。
フリーランスに必要なのは「現実的な保険対策」
結論から言えば、フリーランスにとって 保険加入はほぼ必須 です。自由な働き方を続けるためには、「収入がゼロになるリスク」「高額医療費の負担」「老後資金不足」をカバーする仕組みが欠かせません。
ただし、全ての保険に加入する必要はなく、 優先順位をつけて現実的に選ぶこと が重要です。収入や家族構成、将来のライフプランによって最適な組み合わせは異なりますが、共通して押さえるべきポイントがあります。
保険が必要とされる3つの理由
フリーランスが保険に加入すべき理由を、大きく3つに整理します。
① 社会保障制度のカバー範囲が狭い
会社員は健康保険や厚生年金により、傷病手当金や遺族年金といった保障があります。これに対して、フリーランスが加入できるのは 国民健康保険と国民年金のみ。
- 傷病手当金 → なし
- 雇用保険(失業給付) → なし
- 労災 → 基本的に対象外
つまり、働けなくなった瞬間に「自己責任」で対処せざるを得ないのです。これを補うのが民間保険の役割です。
② 事業継続と生活維持の両立が必要
フリーランスは「自分=事業の全て」と言えます。病気や事故で働けなくなると、収入だけでなく顧客からの信頼や案件も失いかねません。保険により最低限の生活費を確保できれば、無理に仕事を続けて悪化させるリスクを避け、治療に専念できます。結果として、 事業を継続できる可能性が高まる のです。
③ 老後資金や家族保障の不足を補える
フリーランスは退職金制度がなく、国民年金だけでは将来の生活資金が不足しやすいと言われています。さらに、万一の場合に遺族年金だけで家族を支えるのは難しいでしょう。
そこで、生命保険や積立型の保険を活用することで、 将来の生活設計に安定性を加える ことができます。
フリーランスに適した保険の種類
保険といっても多岐にわたりますが、フリーランスが特に検討すべきものを整理します。
医療保険
入院・手術に備える基本的な保険。先進医療や長期入院への対応が可能なプランを選ぶと安心です。
所得補償保険(就業不能保険)
病気やケガで働けない期間に収入を補償する保険。フリーランスの生命線とも言える存在です。月額数十万円を数年間保障してくれるタイプを選ぶと、生活の安定に直結します。
生命保険
家族がいる場合には必須。定期保険で死亡時の生活費をカバーすることが多く、扶養家族の人数や教育資金に応じて金額を設定するのが現実的です。
老後資金対策(iDeCo・小規模企業共済など)
民間保険に限らず、節税と将来資金準備を兼ねられる制度の活用も有効です。掛金が所得控除になるため、節税効果と老後資金づくりを同時に進められます。
未加入で困ったケース
ケース1:突然の病気で収入がゼロに
30代男性フリーランスデザイナー。国民健康保険に加入していたものの、所得補償保険には未加入でした。ある日、急性膵炎で2か月入院。医療費は高額療養費制度で一部カバーできましたが、その間の収入は完全にゼロ。
- 家賃、生活費をカードで支払って借金が膨らむ
- 仕事の依頼もストップし、退院後も収入が元に戻るまで半年以上かかった
→ 結果として、生活再建に数年かかりました。
ケース2:家族への備えがなく残された遺族が困窮
40代男性フリーランスライター。持病はなく「自分は大丈夫」と保険に加入せずにいたところ、交通事故で急逝。国民年金から支給された遺族基礎年金だけでは子どもの教育費に到底足りず、妻はパートを掛け持ちすることに。生命保険があれば教育費や住宅ローンを守れたはずでした。
加入して助かったケース
ケース1:所得補償保険で生活を維持
30代女性フリーランスエンジニア。月20万円の所得補償保険に加入していたところ、椎間板ヘルニアで半年間働けなくなりました。その間、保険からの給付で生活費と最低限の事業経費をまかなうことができたため、治療に専念でき、復帰後も顧客との関係を維持できました。
ケース2:生命保険で遺族の生活を支えた
50代男性フリーランスカメラマン。持病を考慮して定期保険に加入していました。数年後に病気で亡くなりましたが、保険金で住宅ローンが完済され、家族は生活基盤を失わずに済みました。未加入だった場合、遺族の生活は大きく変わっていたはずです。
事例から見える教訓
これらの事例が示すのは、フリーランスにとって保険が 「贅沢」ではなく「必要経費」 であるということです。
- 未加入 → 病気や事故の瞬間に生活が崩壊するリスク
- 加入済み → 生活や事業の継続が可能になる
つまり、保険は「起こるかどうか分からない出来事」に備えるものではなく、いずれ直面する可能性が高い現実的リスクに対応する仕組みだと捉えるべきです。
フリーランスが取るべき現実的な対策
1. リスクの棚卸しを行う
まずは、自分が直面する可能性のあるリスクを洗い出しましょう。
- 病気やケガで長期離脱した場合の生活費
- 家族がいる場合の遺族の生活資金や教育費
- 事業を継続するために必要な最低限の経費
「どのくらいの期間、どの程度の金額が必要か」を明確にすることが第一歩です。
2. 公的制度と民間保険を組み合わせる
フリーランスは会社員のような傷病手当金や失業保険がないため、公的制度と民間保険の両輪で備える必要があります。
- 公的制度
- 高額療養費制度
- 国民年金(遺族年金・障害年金)
- 小規模企業共済(廃業・老後の備え)
- 民間保険
- 所得補償保険:病気・ケガで働けない期間の生活費を補填
- 医療保険:入院・手術にかかる医療費をカバー
- 生命保険:遺族の生活や教育費を守る
3. 必要保障額をシミュレーションする
加入すべき保険を選ぶには、必要保障額のシミュレーションが欠かせません。
例:30代独身フリーランスの場合
- 毎月の生活費:20万円
- 病気・ケガのリスクに備えたい期間:6か月
👉 所得補償保険は「月20万円×6か月=120万円」程度が目安。
例:40代子持ちフリーランスの場合
- 教育費:大学まで1人あたり1,000万円以上
- 住宅ローン:残債2,000万円
👉 生命保険は「教育費+住宅ローン残債+生活費数年分」をカバーする必要あり。
4. 保険料は「経費」として考える
フリーランスにとって、保険料は単なる支出ではなく、事業継続のための投資です。
さらに、生命保険料控除や小規模企業共済掛金控除など、税制優遇を活用できる保険商品も多いため、節税効果も期待できます。
5. 定期的に見直しを行う
ライフステージの変化に応じて、必要な保障額や保険の種類は変わります。
- 独身 → 最低限の医療保険・所得補償保険
- 結婚・子育て → 生命保険を増額
- 子どもの独立・住宅ローン完済 → 保険を縮小
「加入したら終わり」ではなく、定期的な見直しがリスク管理の鍵となります。
まとめ:保険未加入は「リスクの先送り」
フリーランスが保険に加入しないという選択は、一見すると支出を抑えているように見えますが、実際には将来のリスクを先送りにしているにすぎません。
現実的な備えとしては、
- リスクを洗い出す
- 公的制度と民間保険を組み合わせる
- 必要保障額をシミュレーションする
- 節税効果も視野に入れて加入する
- 定期的に見直す
これらを実践することで、万が一の収入減リスクに直面しても、生活と事業を守ることができます。

