法人保険を「福利厚生」として活用する発想
法人保険というと、多くの経営者は「節税」や「退職金準備」のイメージを抱きます。
しかし実際には、法人保険は 従業員の福利厚生 としても非常に有効な手段です。
福利厚生を強化することは、単に社員の満足度を高めるだけではありません。
- 採用競争力の向上
- 優秀人材の定着
- 医療・介護リスクへの備え
- 税務上のメリット
こうした複数の効果を期待できるため、福利厚生目的の法人保険は中小企業にとって見逃せない選択肢となっています。
中小企業が直面する福利厚生の課題
大企業と比較すると、中小企業は福利厚生の整備が不十分になりがちです。
例えば、
- 健康診断や医療補助制度が整っていない
- 退職金制度が十分に準備できていない
- 万が一の労災や死亡時の補償が限定的
こうした状況は、従業員の安心感を損ない、優秀な人材の流出や採用難につながります。
一方で、中小企業は限られた予算の中で福利厚生を整えなければならないため、コスト効率の高い手段 を求められます。
その解決策の一つが、法人保険を福利厚生の一環として導入することなのです。
福利厚生目的の法人保険が果たす役割
法人保険を福利厚生に活用すると、次のような効果があります。
- 従業員の安心感の提供
医療や死亡時の保障を通じて、社員が安心して働ける環境を整備できる。 - 退職後の生活支援
退職金制度が整っていない企業でも、保険を活用して退職慰労金を準備可能。 - 会社のイメージ向上
福利厚生の充実は採用ページでのPRポイントになり、採用活動を有利に進められる。 - 税務面でのメリット
保険料の一部または全部を損金算入できる商品を選べば、コスト削減と社員還元を両立。
福利厚生目的で使える法人保険の種類
法人保険には多様な商品がありますが、福利厚生に直結しやすいのは以下の保険です。
それぞれの特徴を理解することで、自社に合った選択が可能になります。
1. 法人向け医療保険
- 特徴:従業員が病気やけがで入院・手術した際に保険金が支払われる
- メリット:会社負担で医療保険に加入できるため、社員の安心感が増す
- 活用例:福利厚生費として損金処理でき、かつ従業員満足度の向上に直結
2. 法人向けがん保険
- 特徴:がん治療にかかる費用を補償する保険
- メリット:がんは長期治療になりやすく、経済的負担が大きいため社員からの評価が高い
- 活用例:経営者自身の保障を兼ねながら、従業員にも加入枠を設けるケースが多い
3. 団体定期保険(グループ保険)
- 特徴:従業員が死亡・高度障害になった際に一定額が支払われる
- メリット:比較的安い保険料で大人数をカバーできる
- 活用例:福利厚生制度の一環として、退職金制度の補完として利用される
4. 退職金準備型保険
- 特徴:長期的に保険料を積み立て、退職時に解約返戻金を退職金に充当できる
- メリット:福利厚生の充実と同時に節税効果も期待できる
- 活用例:中小企業退職金共済に加えて導入することで、退職後の生活支援を強化
5. 養老保険(福利厚生プラン)
- 特徴:一定期間保険料を支払い、満期時に満額または一部が戻ってくる
- メリット:保障と積立の両方を兼ね備える
- 活用例:従業員の結婚祝い金や退職金の財源として利用可能
福利厚生目的での法人保険の特徴比較
| 保険種類 | 保障の主な内容 | 福利厚生での効果 | 税務上の扱い |
|---|---|---|---|
| 医療保険 | 入院・手術費用 | 従業員の医療負担軽減 | 福利厚生費として損金算入可 |
| がん保険 | がん治療費用 | 長期治療の不安を解消 | 福利厚生費として損金算入可 |
| 団体定期保険 | 死亡・高度障害保障 | 万一の生活保障 | 保険料は損金算入可 |
| 退職金準備型保険 | 解約返戻金 | 退職金準備 | 一部または全額損金算入可 |
| 養老保険 | 死亡保障+満期返戻金 | 慶弔金・退職慰労金 | 活用方法により損金算入割合が変動 |
福利厚生目的での法人保険活用事例
事例1:医療保険を導入して従業員の安心感を向上
あるIT系ベンチャー企業では、若手社員が中心でありながら、福利厚生制度の未整備が課題でした。
そこで法人契約の医療保険を導入。
- 従業員が入院・手術した際に会社負担で保険金を受け取れる仕組みを整備
- 保険料は福利厚生費として損金算入可能
- 「社員の健康を守る会社」というブランディングが強まり、採用にも好影響
結果、従業員の安心感が高まり、離職率が減少しました。
事例2:がん保険を経営者+従業員に付保
製造業を営む中小企業では、経営者の万一のリスクと従業員の生活支援を同時にカバーするため、法人がん保険に加入。
- 経営者自身も保障対象となり、会社の存続リスクを軽減
- 従業員にも枠を広げることで「長期的な安心」を提供
- 会社負担で加入できるため、従業員からの評価が高い
経営者・従業員双方を守る仕組みが構築され、福利厚生制度の信頼性が大幅に高まりました。
事例3:団体定期保険で低コストに死亡保障を付与
人材派遣業を行う企業では、社員数が多いため個別の保険加入はコストがかかるという課題がありました。
そこで、安価に加入できる団体定期保険を導入。
- 万一の場合に遺族へまとまった保障金を支払う仕組みを整備
- 保険料は損金算入でき、経営上の負担を軽減
- 従業員数の多い業態でも福利厚生を整備できる仕組みを構築
結果として、社員満足度の向上と採用面での差別化に成功しました。
事例4:退職金準備型保険で制度を整備
小売業を営む中小企業では、これまで退職金制度が整っておらず、長年勤務した社員に報いる仕組みがありませんでした。
そこで退職金準備型の法人保険を導入。
- 解約返戻金を退職金の支払いに充当
- 保険料を損金算入することで法人税を圧縮
- 「長く勤めればしっかり報われる」という企業文化を構築
結果として、社員の定着率が上がり、採用コストの削減にもつながりました。
事例から見える共通点
これらの事例には共通点があります。
- 福利厚生の強化は「従業員満足度」だけでなく「経営安定化」に直結する
- 法人保険を活用することでコスト効率良く福利厚生を整備できる
- 税務メリットを同時に享受できるため、中小企業にとって導入しやすい
つまり、法人保険は単なる「保障商品」ではなく、福利厚生戦略の一環として大きな意味を持つのです。
福利厚生目的で法人保険を導入する実践ステップ
法人保険を福利厚生に取り入れる際は、思いつきで契約するのではなく、計画的に進めることが重要です。以下のステップで導入を検討しましょう。
ステップ1:自社の福利厚生ニーズを把握する
- 社員からの要望(医療・がん保障、退職金、慶弔金など)をヒアリング
- 既存の福利厚生制度とのバランスを確認
- 会社の財務状況と保険料負担の限度を整理
まずは「何のために福利厚生を強化するのか」を明確にすることが第一歩です。
ステップ2:目的に合った保険商品を選定する
- 健康リスクに備える → 医療保険・がん保険
- 万一の遺族補償 → 団体定期保険
- 退職金準備 → 退職金準備型保険・養老保険
複数の目的を兼ねられる保険もあるため、比較検討が必要です。
ステップ3:税務メリットを確認する
- 保険料が福利厚生費として損金算入できるか
- 解約返戻金を受け取った際の課税関係
- 過去の税制改正の影響を受けやすい商品ではないか
税務面の取り扱いを理解しないまま契約すると、思ったような効果が得られない場合もあるため、専門家への確認が欠かせません。
ステップ4:従業員への周知と制度化
- 「会社が保険料を負担している」ことを社員に明確に伝える
- 就業規則や福利厚生規程に反映させる
- 福利厚生制度として採用ページや社内広報で積極的に発信
従業員が制度を理解し、安心して活用できる環境づくりが必要です。
ステップ5:定期的に見直す
- 社員構成の変化(若年層中心→中高年層中心)
- 会社の業績や資金繰りの状況
- 税制や保険商品の変更
定期的に見直すことで、常に最適な福利厚生制度を維持できます。
まとめ
福利厚生目的で法人保険を導入することは、社員の安心感を高めるだけでなく、採用力・定着率の向上、さらには税務メリットを享受できる有効な手段です。
- 医療保険・がん保険:従業員とその家族の健康リスクに備える
- 団体定期保険:万一の遺族補償を低コストで実現
- 退職金準備型保険・養老保険:長期的な福利厚生制度の基盤を構築
これらを組み合わせることで、中小企業でも効率的に福利厚生を整備できます。
法人保険を福利厚生として導入することは、「人を守る会社」への第一歩 といえるでしょう。










