節税や事業承継に使える保険がある?
個人事業主や中小企業の経営者にとって、保険は単なる万一の備えだけではありません。実は「節税」や「資産形成」「事業承継」などにも活用できる戦略的な道具でもあります。その中でも「逓増定期保険(ていぞうていきほけん)」という特殊な法人保険は、税務対策やキャッシュフロー戦略の一環として注目を集めています。
でも、「逓増」って何?どういう仕組みで、どんな風に使うの?――そんな疑問を持つ経営者も多いはずです。
本記事では、税理士の視点から逓増定期保険の仕組みや活用例を、かみ砕いてわかりやすく解説します。
知らずに加入すると税務リスクも?
逓増定期保険は、一見すると「保険金が増えてお得そう」と思われがちですが、実際には注意すべき税務処理や制限があります。
たとえば、以下のような悩みが起こり得ます:
- 「損金にできると思ったら、一部しか認められなかった…」
- 「解約返戻金のピーク時を逃して損をした」
- 「税務調査で否認されたらどうしよう?」
税制改正(特に平成31年の法改正)以降、逓増定期保険の損金算入には厳格なルールが適用されており、正しく理解しておかないと、逆に税務リスクを抱えることになります。
逓増定期保険は「目的」を明確にすれば有効
逓増定期保険は、使い方さえ間違えなければ非常に強力なツールです。
結論:逓増定期保険は、「退職金の準備」や「事業承継資金の積立」など、将来的な支出を見越した資金準備に活用すべき制度です。
また、現在の税制では損金算入割合が制限されていますが、それでも戦略的に活用する価値はあります。
※損金処理のルールは契約内容・加入時期により異なります。
逓増定期保険の特徴とメリット
逓増定期保険には、他の保険にはない以下のような特徴があります:
🔹 特徴①:死亡保険金が年々増加
契約時は低額な保険金でも、年数が経つごとに増えていきます。たとえば以下のようなイメージです:
経過年数 | 死亡保険金 |
---|---|
1年目 | 1,000万円 |
5年目 | 2,500万円 |
10年目 | 5,000万円 |
これは、役員の死亡時期を想定して、事業保障や退職金に備える設計が可能になります。
🔹 特徴②:解約返戻金も増加
一定年数経過後に解約すると、大きな返戻金が戻る設計になっており、「資金調達」や「退職金原資」に使いやすいのが利点です。
🔹 特徴③:節税しながら将来の資金準備ができる
(例:1/2損金)であれば、支払保険料の半分を経費にでき、法人の利益圧縮=法人税の節税が可能です。
逓増定期保険の活用シーン
実際にどのような場面で逓増定期保険が使われているのか、モデルケースを交えて解説します。
✅ ケース1:役員退職金の準備
状況:社長が10年後に引退予定。退職金として2,000万円を支払いたい。
活用法:
- 10年間、年間保険料200万円を支払う逓増定期保険に加入。
ポイント:
- 支払期間と解約時期を退職予定時期に合わせる。
- 保険会社の設計書で「返戻率のピーク」を事前に確認。
✅ ケース2:経営者の万一に備える死亡保障
状況:創業間もないが、経営者に万一があった際の保障を確保したい。
活用法:
- 死亡保障が年々増えていく設計の逓増定期保険に加入。
- 最初は保険金1,000万円だが、10年後には5,000万円以上に。
ポイント:
- 法人契約であれば、保険金は会社に支払われ、事業継続資金に使える。
- 節税と保障の両立ができる。
✅ ケース3:中小企業の資金繰り対策
状況:急な支出や税金支払いに備えたいが、資金を寝かせたくない。
活用法:
- 逓増定期保険の「高返戻率の時期」で一時的に解約し、資金を流動化。
- 必要に応じて再加入や一時払いプランで再構成。
ポイント:
- 資金計画と保険設計を税理士と連携して行うことが重要。
- 解約返戻金は益金になるため、税務上の処理にも注意。
逓増定期保険を導入する前に確認すべきこと
加入する前に、以下のポイントを必ずチェックしましょう。
📌 加入前チェックリスト
チェック項目 | 内容 |
---|---|
税務処理の確認 | 何割が損金算入できるか、事前に確認する |
解約返戻率のピーク | 解約時期の見極めが非常に重要 |
目的の明確化 | 「節税」「退職金」「保障」などの活用目的を明確に |
契約形態の確認 | 法人契約か個人契約か、受取人の指定も確認 |
税理士との相談 | 税務リスクや処理を必ず専門家と連携 |
まとめ
逓増定期保険は、活用目的とタイミングが合えば、節税・保障・資金準備の三拍子がそろった強力な保険商品です。
しかし、税務上の取扱いが複雑であるため、「節税にならない」「税務調査で否認される」といったリスクも存在します。
事前の準備と設計が命!
節税効果だけを求めず、あくまで「将来必要な資金の準備」として位置づけ、信頼できる保険担当者や税理士と相談のうえで検討しましょう。