海外出張と節税の意外な関係
海外出張は企業活動に欠かせない業務のひとつです。取引先との交渉、現地調査、国際会議への参加など、出張の目的は多岐にわたります。しかし経営者や個人事業主にとって気になるのは「コスト」と「税金」です。実は、海外出張にかかる費用の中には、正しく処理すれば非課税となる手当があり、結果として節税効果を得られる可能性があります。
一方で、これを誤って扱うと、税務調査で「給与扱い」とされ、余分な税金を課されるリスクもあります。特に「非課税手当」の扱いは細かい条件が定められているため、経営者や経理担当者は必ず押さえておく必要があります。
出張手当と給与課税の違い
出張に関連する支給は大きく分けると次の2種類です。
- 経費精算型(実費補填型)
航空券・宿泊費・交通費などの実際に支払った金額を精算するもの。これは当然ながら非課税です。 - 日当・出張手当型(定額支給型)
「1日あたり〇〇円」といった形で定額を支給するもの。これが「非課税手当」となるか「給与課税」となるかが、節税の分かれ目になります。
特に海外出張では、滞在先や日数によって支給額が大きくなりやすいため、非課税手当の取り扱いが重要になります。
なぜ非課税手当が問題になるのか
出張手当を非課税で扱えるかどうかは、次のような影響をもたらします。
- 会社側のメリット
給与として課税されると社会保険料も増えるため、手当を「非課税」で処理できればコスト削減につながります。 - 従業員側のメリット
給与課税となれば所得税・住民税の対象になるが、非課税手当なら税負担が減り、手取りが増えます。 - 税務リスク
過大な手当や不適切な処理をすると、税務署から「実質的に給与」と判断され、追徴課税を受ける可能性があります。
つまり、非課税手当は節税メリットが大きい一方で、誤った運用は大きなリスクにもなり得るのです。
海外出張で特に注意すべきポイント
国内出張と異なり、海外出張には次のような特徴があります。
- 宿泊費・食費の相場が国ごとに異なる
- 長期滞在や時差・物価差による支出の増加
- 外貨建てでの精算の煩雑さ
- 税務署からのチェックが比較的厳しい
特に「どこまでが非課税で認められるか」の基準は、海外出張の方が曖昧になりがちです。そのため、非課税手当を設ける場合は、金額・条件・社内規程の整備が欠かせません。
非課税手当として認められる条件とは
結論から言うと、海外出張で支給する手当が非課税として認められるためには、税務上の明確なルールがあります。ポイントは以下の3つです。
- 実費弁償の性格を持っていること
出張に伴う食費・雑費など、実際の支出をカバーする目的であること。 - 金額が社会通念上妥当な範囲であること
国ごとの物価や宿泊費の相場を踏まえて「高すぎない」金額であること。 - 社内規程に基づき支給されていること
「海外出張規程」などの明文化されたルールに基づいていること。
この3つを満たせば、出張手当は「給与」ではなく「非課税手当」として扱うことが可能です。逆に、規程がなく恣意的に支給した場合は、ほとんどのケースで給与課税されてしまいます。
なぜ非課税手当が認められるのか
では、なぜ日当や手当が非課税として認められるのでしょうか。その理由は「税法の基本的な考え方」にあります。
- 給与課税の原則
労働の対価はすべて課税対象。通常の給与・賞与は当然課税されます。 - 非課税の例外
ただし、業務遂行上必要な実費補填(出張費・交通費・宿泊費など)は課税しない。これは従業員の所得ではなく「会社の業務のために使われたお金」と考えられるからです。 - 日当が認められる理由
出張先での細かい支出(チップ・軽食・交通カードなど)をすべて領収書で管理するのは非現実的。そこで「日当」としてまとめて支給し、それを非課税扱いすることが認められています。
つまり、出張手当はあくまで業務に必要な費用を補填するものであり、給与の一部ではないと考えられているのです。
海外出張ならではの判断基準
国内出張と比べ、海外出張では次のような点が判断基準として加わります。
- 滞在国の物価水準
欧米先進国とアジア新興国では食費・雑費が大きく異なる。 - 為替レートの影響
円安局面では出張コストが増大するため、日当設定も変動が必要。 - 長期滞在か短期出張か
長期になるほど宿泊費や生活費は固定化するため、日当水準は相対的に下がる傾向。
このように、海外出張の非課税手当は「金額が妥当かどうか」が特に重視されます。過大だと給与認定され、過小だと従業員の実費負担が増えるため、バランス感覚が求められるのです。
非課税が否認される典型例
税務調査で「これは給与です」とされるケースも多々あります。よくある例を整理すると以下の通りです。
- 社内規程が存在せず、経営者が都度金額を決めていた
- 海外の物価に比べて著しく高額な手当を支給していた
- 実費精算と日当の二重支給になっていた
- 実際には出張していないのに「出張手当」として支給していた
これらはすべて「給与課税」とされる典型例であり、追徴課税や社会保険料の追加負担につながります。
実際に使える非課税手当の金額目安
海外出張で非課税として認められる手当の金額は、各企業が独自に設定できますが、妥当性の判断基準として以下が参考になります。
国別の日当目安
実務では「外務省の在外公館職員に支給される旅費規程」や「国税庁が定める日当水準」をベンチマークにすることが一般的です。
| 地域 | 目安金額(日当) | 備考 |
|---|---|---|
| 米国・欧州主要都市 | 8,000〜12,000円 | 物価高・為替の影響大 |
| アジア主要都市(シンガポール・香港など) | 6,000〜9,000円 | 日本と同等かやや高め |
| アジア新興国(ベトナム・タイなど) | 4,000〜7,000円 | 物価が比較的低い |
| その他(中東・アフリカなど) | 5,000〜10,000円 | 治安リスクや物価差により変動大 |
※この金額はあくまで一般的な目安であり、企業規模や職務内容により調整可能です。
非課税手当の仕訳例
実際に海外出張手当を計上する場合の仕訳例を見てみましょう。
例:社員を米国へ5日間出張させた場合(日当1万円)
- 出張手当(非課税部分) 50,000円を支給
借方:旅費交通費 50,000円
貸方:現金/普通預金 50,000円
ポイントは「旅費交通費」として処理し、給与や賞与の勘定科目に混ぜないことです。
社内規程のサンプル
非課税を確実に適用するためには 「海外出張旅費規程」 を作成することが必須です。以下は簡易サンプルです。
海外出張旅費規程(抜粋)
- 出張手当(日当)は以下の通りとする。
- 米国・欧州主要都市 10,000円/日
- アジア主要都市 8,000円/日
- アジア新興国 6,000円/日 - 出張手当は宿泊費・食費・雑費を含むものとし、領収書は不要とする。
- 出張期間は出発日から帰国日までとし、移動日の手当は半額とする。
このように、支給基準を明確化しておくことで、税務調査時にも「給与ではなく旅費精算である」と主張しやすくなります。
ケーススタディ:課税される場合とされない場合
実際の運用でよくあるシナリオを比較してみましょう。
| ケース | 非課税扱い | 課税扱い |
|---|---|---|
| 社内規程に基づき日当8,000円を支給 | ○ | ― |
| 米国出張で日当30,000円を支給(相場より高額) | ― | ○ |
| 日当8,000円+実費の食費精算を二重で支給 | ― | ○ |
| 出張実態がないのに「海外出張手当」として支給 | ― | ○ |
節税効果の試算
仮に社員5名が年2回、米国へ5日間の出張に行く場合を想定してみます。
- 日当1万円 × 5日 × 5名 × 2回 = 50万円
この50万円が「給与課税」になるか「非課税旅費」になるかで大きな差が生まれます。
- 給与課税の場合 → 所得税・住民税・社会保険料が課される
- 非課税処理の場合 → 手当全額が会社の経費、かつ社員の手取りも減らない
結果として、会社・社員の双方にメリットがあるのが「非課税処理」の大きな強みです。
海外出張手当を節税に活かすための実務ステップ
1. 社内規程を整備する
まず最初にやるべきは、海外出張旅費規程を作成・見直すことです。
規程には以下を明確に記載しましょう。
- 支給対象となる社員の範囲(役員・従業員)
- 日当の金額(国・地域ごとに設定)
- 支給対象となる日数(出発日・帰国日を含むか、移動日は半額か等)
- 宿泊費・食費との関係(手当込みか別途支給か)
規程がなければ「給与と同じ」と判断されるリスクが高まります。
2. 実態に即した出張を行う
節税のために無理やり「海外出張」を作るのは避けるべきです。
実際に業務を行った証拠(議事録・名刺交換記録・現地写真など) を残しておくと安心です。
3. 支給額は相場を超えない
「相場以上の高額な日当」を設定すると、課税リスクが一気に高まります。
外務省や国税庁の水準を参考に、多くても日額1万円程度までに抑えるのが安全策です。
4. 領収書不要のメリットを活かす
非課税手当の強みは「領収書が不要」な点です。
ただし、重複精算を避けるために、日当と実費精算の区分を明確にしましょう。
5. 税理士と相談して運用ルールを固める
制度を導入する際は、必ず顧問税理士に確認してください。
会社の規模・業種・海外進出状況に応じて、最適なルール設計が可能です。
海外出張手当の節税は「会社と社員の両方にメリット」
海外出張手当を非課税で運用できれば、
- 会社 → 経費を増やして法人税の負担を軽減
- 社員 → 所得税・社会保険料を負担せずに手取り増
という Win-Winの節税 が実現します。
ただし、制度設計を誤ると「給与課税」とされるリスクもあるため、慎重に進めることが大切です。

