経営者の悩み「まずどちらに入るべきか?」
経営をしていると、万が一に備えるための「保障」と「節税」は欠かせません。そんなとき、候補に挙がるのが「共済制度」と「法人保険」です。
- 共済は中小企業や個人事業主を支援する公的な制度。
- 法人保険は自由度が高く、退職金準備や資産形成にも活用できる民間の仕組み。
どちらも魅力的な制度である一方、「両方には入りづらい」「まずはどちらを優先すべきか?」と迷う方も多いはずです。
この記事では、税理士の視点から両者の仕組みと違い、優先順位の考え方をわかりやすく解説していきます。
間違った選択で損していませんか?
多くの経営者は「税理士に言われたから」「営業担当にすすめられたから」という理由でなんとなく加入しているケースがあります。
しかし実際には以下のような「誤解」や「落とし穴」があります。
よくある誤解 | 実際には… |
---|---|
法人保険の方が節税効果が高い | 解約返戻率によっては逆に税負担が重くなることも |
共済は貯蓄にならない | 小規模企業共済や倒産防止共済はしっかり戻ってくる |
両方併用できない | 目的に応じて使い分ければ併用も可能 |
正しい理解と優先順位を知らずに契約すると、資金繰りが苦しくなったり、本来得られたはずの節税メリットを逃すリスクがあります。
原則は「共済 → 法人保険」の順で優先すべき
税務・キャッシュフロー・経営リスクの観点から考えると、基本的な優先順位は以下のとおりです。
✅ 先に加入すべきは「共済制度」
- 公的制度で安定しており、掛金全額損金算入できる
- 掛金の返戻も比較的柔軟
- 資金繰り対策にも有効(倒産防止共済など)
❗ その後に検討すべきが「法人保険」
- 解約返戻率や出口戦略の設計が難しい
- 誤った設計で税務調査の対象になりやすい
もちろん、法人保険にも多くのメリットがありますが、順番を誤ると経営上のリスクになる場合もあるため、基本は「共済を優先してから法人保険」をおすすめします。
共済を優先すべき3つの根拠
共済と法人保険にはどちらもメリットがありますが、特に中小企業・個人事業主にとって共済を優先すべき理由は明確です。
① 損金性・控除性が高く、税務リスクが小さい
共済制度は国が支援する仕組みであり、以下のように掛金の全額が損金または所得控除の対象になります。
制度名 | 節税効果 | 税務上の処理 |
---|---|---|
小規模企業共済 | 掛金全額が所得控除 | 所得税・住民税の節税 |
倒産防止共済(経営セーフティ共済) | 掛金全額が必要経費 | 所得税または法人税の節税 |
一方、法人保険は商品によって損金算入できる割合が異なり、契約形態を間違えると否認されるリスクがあります。
② 返戻金・貸付の柔軟性が高い
たとえば倒産防止共済は、解約時に40か月以上加入していれば100%返戻されます。
さらに「取引先の倒産時には即日貸付が可能」という、資金繰りのセーフティネットとしても機能します。
法人保険も解約返戻金はありますが、「返戻率のピークを過ぎると減少」「途中解約で損をする」などのリスクがあります。
③ 加入ハードルが低く、コスト効率が高い
共済制度は比較的少額から加入でき、制度によっては掛金月額5,000円から対応しています。一方、法人保険は年間数十万円〜百万円単位の支払いが必要になることも多く、資金に余裕がある法人向きの制度です。
共済と法人保険の比較表
項目 | 共済(小規模・倒産防止) | 法人保険 |
---|---|---|
損金・控除の扱い | 全額控除・全額損金 | 商品により異なる(1/2損金など) |
解約返戻 | あり(条件付きで100%) | あり(契約により変動) |
貸付制度 | 倒産時即時貸付・低利 | 原則なし |
加入対象 | 個人事業主・法人 | 主に法人(役員・従業員) |
最低掛金額 | 月1,000円〜 | 月数万円〜が一般的 |
税務リスク | ほぼなし | 設計次第で否認リスクあり |
管理・運用の手間 | 少ない | 書類・管理コストが発生 |
ケース別の使い分け方
● 節税を優先しつつ、廃業時の備えもしたい → 小規模企業共済
→ 掛金全額所得控除。将来の「退職金」的な位置づけ。
● 取引先倒産リスクがある → 経営セーフティ共済
→ 売掛金が未回収になる際の資金対策+節税。
● 役員退職金や資産形成も視野に入れたい → 法人保険
→ 長期契約・退職金準備に使える。ただし設計に注意。
共済と法人保険、賢く選ぶための実践ステップ
「結局、自分はどちらを選べばいいのか?」という疑問に答えるために、以下のステップで判断しましょう。
✅ ステップ1:目的を整理する
主な目的 | 向いている制度 |
---|---|
節税したい | 共済(小規模企業共済・倒産防止共済) |
老後資金を準備したい | 小規模企業共済・法人保険 |
倒産リスクに備えたい | 経営セーフティ共済 |
退職金を準備したい | 法人保険(逓増定期など) |
✅ ステップ2:資金繰りの余裕を確認する
- 月1万円〜無理なく支払える → 共済からスタート
- 毎年100万円以上のキャッシュが余る → 法人保険も視野に
✅ ステップ3:節税+保障+資産形成を総合的に設計する
保険だけでなく、共済・小規模企業共済・iDeCoなど、他の制度とのバランスも含めて検討しましょう。
✅ ステップ4:税理士またはFPと一緒に設計する(強く推奨)
- 保険商品の設計は税務・会計・法務の知識が必要
- 共済と法人保険をどう併用するかは、節税の質を左右します
結論は「共済優先、法人保険は慎重に」
- 共済制度は安価で節税効果が高く、リスクも少ない
- 法人保険は自由度が高い反面、設計を誤ると税務否認のリスクあり
- 優先順位は「共済→法人保険」がおすすめ
- 経営戦略として、両方を上手に組み合わせるのが理想
まずは共済から加入し、事業が安定した段階で法人保険を活用するのが、最も合理的かつ安全な方法です。