“もしも”に備えるなら、共済制度を活用しよう
個人事業主や中小企業の経営者にとって、病気や事故、老後の生活、万が一の経営危機といった「リスクへの備え」は避けて通れません。
しかし、会社員とは異なり、公的な保障が十分でないことから、「自分で守る」仕組みが必要不可欠です。
そんなときに役立つのが「共済制度」です。共済とは、同じような立場の人同士が助け合う保険のような仕組みで、民間保険と比べて安価で実用性が高く、しかも節税にもつながるという特徴があります。
共済制度、何を選べばいいか分からない…
ただし、共済制度と一口に言っても種類は多岐にわたり、それぞれ加入条件・保障内容・節税効果が異なります。
「小規模企業共済って何ができるの?」
「倒産防止共済とどう違う?」
「法人でも個人でも加入できるの?」
「経費にできる?節税効果は?」
といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
間違って加入してしまうと、
☑ 節税にならない
☑ 必要なときに使えない
☑ 月々の負担が無駄になる
という可能性もあります。
目的別に共済を使い分けるのが賢い選択
共済制度を上手に活用するコツは、「目的別に選ぶこと」です。
以下のように目的と対象に応じて最適な共済が異なります。
共済名 | 主な対象 | 目的 | 節税効果 |
---|---|---|---|
小規模企業共済 | 個人事業主・法人役員 | 廃業・退職時の資金準備 | 掛金全額を所得控除 |
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済) | 法人・個人事業主 | 売掛金未回収に備える | 掛金全額を損金処理 |
中小企業退職金共済(中退共) | 法人(従業員向け) | 従業員の退職金制度 | 掛金は損金算入 |
各種自治体共済 | 自治体ごとに異なる | 医療保障・生活補償 | 一部控除対象になることもあり |
このように、自分の立場と目的に合った共済を組み合わせることで、リスク対策と節税を両立できます。
次章では、それぞれの共済制度の「仕組み・対象・効果」について詳しく解説していきます。
共済制度の仕組みと税制上の優遇措置
共済制度が「自営業者・法人に向いている」と言われる理由は、その仕組みの合理性と、税制上の優遇措置が密接に関係しています。
この章では、主な共済制度の構造と、節税効果の根拠を分かりやすく解説します。
小規模企業共済|個人事業主・法人役員の“退職金制度”
■ 制度概要
- 運営:中小機構(独立行政法人)
- 加入対象:個人事業主、法人の役員(中小企業限定)
- 毎月の掛金:1,000円〜7万円まで(500円単位で設定可能)
- 解約時:退職・廃業などで「共済金」が支給される
■ 税制優遇のポイント
- 掛金が「全額所得控除」対象(小規模企業共済等掛金控除)
- 解約時の共済金は「退職所得」または「一時所得」扱いで優遇課税
項目 | 節税効果 |
---|---|
毎月5万円拠出した場合 | 年60万円の所得控除 |
退職時に1,000万円を一括受取 | 退職所得控除+1/2課税で税負担を抑制可能 |
中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)|取引先倒産リスクに備える
■ 制度概要
- 運営:中小機構
- 加入対象:継続して1年以上事業を行う法人・個人事業主
- 掛金:月5,000円〜20万円(年間最大240万円)
- 共済金貸付:取引先の倒産時に掛金の10倍(上限8,000万円)まで無担保・無保証で借入可能
■ 税制優遇のポイント
- 掛金は全額「損金」または「必要経費」として処理可
- 解約手当金の受取時は「益金計上」されるが、タイミングを選べることで節税効果をコントロールできる
比較項目 | 内容 |
---|---|
年間240万円積立 | 法人税の課税所得を240万円圧縮できる |
解約金を赤字年度に受け取る | 利益と相殺して課税を回避可能 |
中小企業退職金共済(中退共)|従業員への福利厚生+節税
■ 制度概要
- 運営:中小企業退職金共済事業本部(厚労省管轄)
- 加入対象:法人が雇用する正社員・パート・契約社員など
- 掛金:1人あたり月額5,000円〜30,000円(企業が負担)
- 退職時:従業員に直接退職金が支払われる(企業の支払い義務なし)
■ 税制優遇のポイント
- 掛金は全額「損金算入」可能
- 退職金の支払い手続きが簡易化され、企業に負担がかからない
メリット | 内容 |
---|---|
節税 | 従業員1人あたり年間36万円(3万円×12ヶ月)の損金処理 |
福利厚生強化 | 優秀な人材の確保・定着に効果的 |
地域・業界別の共済制度も存在する
全国的に展開されている共済のほかに、地域や業界団体が独自に運営している共済も存在します。
例 | 特徴 |
---|---|
商工会議所の共済制度 | 医療・入院・がん・障害など幅広く対応/保険料が割安 |
青色申告会の共済制度 | 傷病・死亡・入院・老後の年金型などを低価格で提供 |
業界共済(建設業、理美容業など) | 特定業界の実情に即した保障内容や給付条件あり |
→ これらも掛金の一部が経費処理できることが多く、手軽な節税手段として有効です。
目的別で使い分ける共済制度の活用法
共済制度は「どれか一つに加入すればよい」というものではなく、目的に応じて複数を組み合わせて使うのが理想です。この章では、自営業者・法人がそれぞれの立場で共済制度をどう活用しているのか、目的別に具体例を交えて解説します。
目的1:廃業・退職に備える(小規模企業共済)
✅ ケース:個人事業主が老後資金を準備
- 年齢:50代男性、飲食業を個人経営
- 年間所得:約500万円
- 掛金額:月額5万円(年60万円)
効果:
- 年60万円の所得控除により、所得税・住民税が約12万円軽減
- 65歳で廃業時に共済金を1,200万円受給
- 退職所得扱いのため税負担は大幅に抑制され、実質的な老後資金となった
目的2:取引先倒産への備え(経営セーフティ共済)
✅ ケース:建設業の法人社長が資金繰りリスクを回避
- 年商:5,000万円規模の法人
- 年間掛金:月10万円×12ヶ月=120万円
効果:
- 毎年の法人税課税所得を120万円圧縮(税率30%として36万円節税)
- 取引先が倒産し、売掛金400万円が未回収 → 共済貸付で300万円を無担保借入
- 事業継続に成功。赤字年度に解約し、返戻金を益金計上(課税を回避)
目的3:従業員の退職金制度(中退共)
✅ ケース:法人が社員2名の退職金制度を導入
- 掛金:社員2名×月額2万円×12ヶ月=年間48万円
- 導入目的:人材定着と節税の両立
効果:
- 年間48万円を損金処理 → 約15万円の法人税軽減
- 退職時の給付事務が不要
- 従業員からの評価向上により離職率が改善
目的4:短期的な保険・生活保障(自治体や業界共済)
✅ ケース:青色申告会の医療共済を活用
- 月額掛金:2,000円
- 加入目的:最低限の医療保障を低コストで確保
効果:
- 入院時に日額5,000円の給付を受給
- 民間保険に比べて月額保険料が半額以下
- 一部が経費処理可能(事業関連として計上)
共済制度の組み合わせ例
経営者タイプ | 推奨共済の組み合わせ | 節税・備えの効果 |
---|---|---|
個人事業主 | 小規模企業共済+医療共済 | 所得控除+医療費補填 |
法人代表 | 経営セーフティ+中退共 | 法人税対策+福利厚生 |
従業員あり法人 | 中退共+自治体共済 | 損金処理+従業員満足度UP |
フリーランス | 小規模企業共済+青色申告会共済 | 老後+入院リスクへの備え |
自分に合った共済を選ぶためのチェックリストと加入手順
共済制度は「安いからとりあえず入る」ものではなく、事業のフェーズや目的に応じて戦略的に選ぶことが重要です。この章では、実際にどの共済を選ぶべきかの判断ポイントと、加入の流れをまとめました。
✅ ステップ1|目的を明確にする
まずは「自分がどのリスクに備えたいか?」を整理しましょう。
目的 | 適した共済制度 |
---|---|
老後資金の準備 | 小規模企業共済 |
売掛金の回収不能に備えたい | 経営セーフティ共済 |
従業員の退職金制度を整備したい | 中退共 |
最低限の医療保障を確保したい | 地域共済・業界共済 |
将来の事業承継に備えたい | 小規模企業共済(退職金型) |
✅ ステップ2|現状の収支や事業規模と照らし合わせる
掛金の負担が重くなりすぎると継続が困難です。以下の視点で見直しましょう。
- 月々のキャッシュフローに対して無理がないか?
- 節税額と実質負担額のバランスが取れているか?
- 他の保険や制度と重複していないか?
✅ ステップ3|加入手続き・見直しタイミング
共済制度ごとの申し込み方法(概要)
共済制度 | 加入方法 | 必要書類 |
---|---|---|
小規模企業共済 | 商工会議所・金融機関・税理士など | 開業届や確定申告書など |
経営セーフティ共済 | 商工会議所・金融機関・士業経由 | 決算書・確定申告書など |
中退共 | 専用申込書+労働者名簿等 | 労働契約書・給与明細など |
地域共済・業界共済 | 各組合・会議所へ直接申込 | 会員登録が必要な場合もあり |
加入・見直しのおすすめタイミング
- 事業開始・法人設立時:制度の併用計画を立てやすい
- 決算前3ヶ月以内:税金対策と合わせて検討しやすい
- 収入増・従業員増加時:保障内容の見直しを
✅ 加入後の注意点
- 解約返戻金や給付条件は制度によって異なるため、**「途中解約のペナルティ」や「支給条件」**も事前に確認しましょう。
- 解約や共済金受給時の**税務処理(退職所得/一時所得/益金計上)**も、タイミングによって税負担が大きく変わるため、税理士と相談を。
共済は「備え」と「節税」を両立できる最強ツール
共済制度は、公的保障が手薄な自営業者・中小企業経営者にとっての**“経営の安全網”かつ“節税の武器”**です。
- 掛金の損金算入や所得控除で節税効果を発揮
- 万が一の廃業・倒産・病気・退職などに備える
- 制度ごとに目的を明確にして組み合わせるのがベスト
今すぐ、自分の事業に最適な共済制度を見直し・検討して、将来への不安を減らし、税負担もスマートに軽減していきましょう。