会社設立直後に保険を検討すべき理由
法人を設立したばかりの経営者にとって、最初に直面する課題は「資金繰り」と「リスク管理」です。事業を安定させるには売上の確保が第一ですが、同時に想定外のリスクから会社と経営者を守る仕組みも整えておく必要があります。その一つが「法人保険」です。
法人保険は、経営者の死亡リスクや病気・事故への備えだけでなく、退職金準備や節税効果のある資金積立の手段としても活用できます。特に新設法人にとっては、創業初期から正しい保険を導入しておくことで、資金戦略に余裕を持たせることが可能です。
新設法人における法人保険の課題
とはいえ、保険は種類が多岐にわたり、どのプランを選ぶべきか迷う経営者も少なくありません。さらに、新設法人はまだ信用力が十分でないため、加入できる保険の種類や条件に制約があるケースもあります。
また、節税や資金積立を目的に誤った保険を選んでしまうと、「保険料負担が重く資金繰りを圧迫する」「想定していた返戻金が得られない」「解約時に損をする」といったリスクも生じます。新設法人だからこそ、将来を見据えて適切な法人保険を比較・検討することが欠かせません。
新設法人におすすめの保険プランの方向性
新設法人にとっておすすめできる法人保険は、大きく以下の方向性に整理できます。
- 保障重視型:経営者や役員に万が一があった場合、事業継続資金や借入返済に備える
- 積立・資産形成型:退職金や事業承継資金を将来に向けて準備する
- バランス型:保障と積立の両方を兼ね備え、経営状況に応じて柔軟に見直せる
結論として、新設法人が最初に選ぶべきは「保障を確保しつつ資金繰りに無理がないプラン」です。そこから徐々に事業規模や利益状況に合わせ、資産形成型保険を組み合わせていくことが理想的です。
法人保険を選ぶ際に注目すべきポイント
法人保険を比較する上で、新設法人にとって特に重要なチェックポイントは以下の通りです。
- 保険料の負担感:設立直後は売上が安定していないため、月々の保険料が重荷にならないか確認
- 解約返戻率:中途解約時にどれだけ戻るか。創業初期は急な資金需要が発生する可能性があるため重要
- 保障範囲:経営者・役員の万一への備えが十分かどうか
- 節税効果:損金算入できる保険料か、どの程度の節税効果が見込めるか
- 将来の活用方法:退職金や事業承継資金として利用可能か
これらの観点を総合的に比較することで、自社に最適なプランを選択できるようになります。
法人保険の主な種類と新設法人への適性
定期保険
特徴
- 一定期間のみ保障が得られる掛け捨て型保険
- 保険料が比較的安価で、経営者の死亡・高度障害リスクに備えるのに最適
新設法人向けメリット
- 保険料負担が軽いため、資金繰りに優しい
- 借入金返済や遺族保障に活用できる
デメリット
- 解約返戻金がない(もしくは非常に少ない)ため、積立目的には不向き
👉 新設法人は「最低限の保障を確保」するために導入すべき基本の保険。
逓増定期保険
特徴
- 契約から一定期間ごとに保険金額が増えていく保険
- 保険料は高めだが、解約返戻金が積み上がるタイプ
新設法人向けメリット
- 将来の退職金準備や事業承継資金の積立に活用できる
- 解約返戻率が高い時期に解約すれば資金を取り戻せる
デメリット
- 初期の保険料負担が重い
- 税務上の取扱いが変更されやすく、節税効果が制限されるリスクがある
👉 新設法人には早すぎる場合が多く、ある程度利益が出始めてから検討するのが安全。
長期平準定期保険
特徴
- 契約期間が長く、解約返戻金が比較的安定して積み上がる
- 法人保険で退職金準備に多く使われる
新設法人向けメリット
- 将来の退職金準備を計画的に進められる
- 保険料の一部が損金算入できるケースがある
デメリット
- 毎月の負担が重く、赤字期には負担がリスクになる
- 解約返戻金のピークが遠いため、創業直後の資金需要には対応しにくい
👉 設立直後には早いが、中期以降の安定期に導入すると有効。
終身保険
特徴
- 一生涯の保障が続く保険
- 解約返戻金が積み上がり、資産形成にも利用可能
新設法人向けメリット
- 経営者や役員の死亡保障を一生涯確保できる
- 資産としてバランスシートに計上できる
デメリット
- 保険料が高額で、創業初期には資金繰りを圧迫しやすい
- 節税効果は限定的
👉 新設法人にとっては負担が大きく、余裕資金ができてから検討すべき。
養老保険
特徴
- 満期保険金と死亡保険金が同額の「貯蓄型保険」
- 退職金や資金準備に利用される
新設法人向けメリット
- 積立効果が高く、満期時に確実に資金を得られる
- 福利厚生プランとしても利用可能
デメリット
- 保険料が非常に高く、新設法人には現実的ではない
- 解約時の返戻率はそこまで高くない
👉 資金余力がある中堅以上の法人向けで、新設法人には不向き。
保険種類の比較表
| 保険種類 | 保険料の安さ | 解約返戻金 | 節税効果 | 新設法人向きか |
|---|---|---|---|---|
| 定期保険 | ◎ | × | △ | ◎ 基本保険 |
| 逓増定期保険 | △ | ◎ | △ | △ 利益が出てから |
| 長期平準定期保険 | △ | ○ | ○ | △ 中期以降 |
| 終身保険 | × | ○ | △ | × 負担大 |
| 養老保険 | × | ○ | △ | × 資金余裕必要 |
新設法人が選ぶべき優先順位
- 定期保険(最低限の保障)
- 利益が安定してきたら 長期平準定期保険や逓増定期保険 を組み合わせ
- 余裕資金ができてから 終身保険や養老保険 を検討
売上規模ごとの法人保険プランの選び方
年商1億円未満の新設法人
特徴
- 創業期〜成長初期で資金繰りが不安定
- 利益が出ても再投資や運転資金に回すケースが多い
おすすめプラン
- 定期保険(死亡保障の最低限確保)
- 経営者・役員に万一のことがあった場合の借入金返済・事業継続リスクに対応。
- 保険料が安く導入しやすい。
- 医療保険・ガン保険(福利厚生の充実)
- 小規模法人では福利厚生を充実させにくいが、保険を活用することで採用・定着につながる。
👉 最優先は「保障の確保」。貯蓄性保険よりも掛け捨てでコストを抑える。
年商1億〜5億円の中小法人
特徴
- 利益がある程度安定し、節税や将来資金の準備を考え始めるタイミング
- 経営者の退職金準備や内部留保戦略も視野に入る
おすすめプラン
- 長期平準定期保険(退職金準備の開始)
- 保険料の一部を損金算入でき、将来の役員退職金に備えられる。
- 逓増定期保険(利益調整+資金準備)
- 利益が大きい年に積極的に掛けることで、資金繰りと税負担の平準化に役立つ。
- 福利厚生プラン(養老保険)
- 従業員の退職金や福利厚生として活用できる。
👉 この規模の法人は「節税+資金準備」の両立を意識すべき。
年商5億円以上の中堅法人
特徴
- 利益規模が大きく、金融戦略の一環として法人保険を活用できる
- 相続・事業承継、資産承継対策も重要になる
おすすめプラン
- 逓増定期保険+長期平準定期保険の組み合わせ
- 利益調整と退職金準備を同時に実現。
- 終身保険(資産承継)
- 経営者の死亡保険金を遺族への資産移転や相続税対策に活用できる。
- 福利厚生型保険(団体医療・死亡保障)
- 社員数が多い場合、福利厚生制度として導入すれば採用・定着効果が大きい。
👉 規模が大きい法人ほど「財務戦略+承継対策」の視点で保険を活用すべき。
売上規模別のおすすめ保険マトリクス
| 売上規模 | 主な課題 | おすすめ保険 | 活用目的 |
|---|---|---|---|
| 年商1億円未満 | 資金繰り・保障不足 | 定期保険、医療保険 | 借入金返済・福利厚生確保 |
| 年商1〜5億円 | 利益安定・節税対策 | 長期平準定期、逓増定期 | 退職金準備・利益調整 |
| 年商5億円以上 | 財務戦略・承継対策 | 逓増定期+終身保険、福利厚生型 | 資産承継・社員定着 |
実際の活用事例
事例①:年商8,000万円のIT企業
- 創業3年目で借入あり
- 経営者に 定期保険1億円 を付保
👉 借入金リスクをカバーしつつ、福利厚生で医療保険も導入して社員定着につなげた。
事例②:年商2億円の製造業
- 利益が安定し始めたため 長期平準定期保険を活用
- 将来の社長退職金2,000万円を積み立てる計画を開始
👉 損金算入しつつ、資金準備と節税の両立を実現。
事例③:年商10億円の建設業
- 経営者の高齢化に伴い、逓増定期保険と終身保険を併用
- 逓増定期は短期の資金準備、終身は相続・事業承継対策に活用
👉 財務戦略と承継対策を一体で設計した成功例。
売上規模に応じて柔軟に設計することが重要
- 小規模法人は「保障重視」
- 中小規模法人は「節税+資金準備」
- 中堅以上は「財務戦略+承継対策」
保険は万能ではなく、法人の規模や成長ステージに応じて選ぶ必要があります。
法人保険を選ぶときに注意すべきポイント
税務リスクへの注意
- 保険料の損金算入は、国税庁の通達や税制改正により取り扱いが変わることがある
- 特に「節税商品」として売り込まれる保険は税務上否認されるリスクが高い
- 契約前に税理士へ相談し、自社の決算に与える影響を確認することが必須
資金繰りへの影響
- 法人保険は「毎月の保険料支払い=固定費」になる
- 利益が出ているときは良いが、赤字や資金難になると大きな負担に
- 解約すると解約返戻金が戻るが、損失や課税が発生する場合がある
解約返戻金の罠
- 多くの法人保険は 途中解約すると元本割れ する
- 高い返戻率になるのは加入から10年以上経過してから、という商品も多い
- 資金が急に必要になったとき、期待した金額を受け取れない可能性がある
目的と契約内容のズレ
- 「節税のため」と安易に加入すると、将来の資金計画と合わなくなる
- 本来は 退職金準備・借入返済・福利厚生 などの目的に合わせて設計すべき
- 目的が曖昧なまま契約すると、保険料だけが負担になり失敗につながる
失敗しない法人保険の契約方法
1. 保険の「目的」を明確にする
- 借入金返済を目的とするのか?
- 社長の退職金準備か?
- 福利厚生で社員定着を図るのか?
👉 目的によって選ぶべき保険はまったく異なる
2. 複数の商品を比較検討する
- 同じ「長期平準定期」でも、会社ごとに返戻率や税務の扱いが異なる
- 1社だけでなく複数社から見積りをとり、条件を比較することが大切
3. 税理士・保険代理店と連携する
- 保険代理店は商品の知識に詳しいが、税務に関しては判断できない場合が多い
- 税務リスクを避けるには、税理士と一緒に検討することがベスト
4. 契約後も定期的に見直す
- 法人の業績や経営者の年齢、税制改正によって「最適な保険」は変わる
- 3〜5年ごとに保険契約を見直し、不要になったら解約・変更を検討する
法人保険を活用するための行動ステップ
- 会社の現状を整理
- 売上規模、利益、借入金、役員構成を把握
- 目的を決定
- 退職金?福利厚生?資金繰り安定?
- 保険の種類を絞る
- 定期保険/長期平準定期/逓増定期/終身保険 など
- 見積り比較を実施
- 保険会社や代理店から複数提案を受ける
- 税理士と最終確認
- 損金算入の可否・将来の資金繰り・税務上のリスクを確認
- 契約後の定期的見直し
- 3〜5年ごとに再点検して会社に合った設計に修正
まとめ:新設法人に最適な法人保険の選び方
- 小規模法人は「保障重視」、中規模法人は「節税+退職金準備」、大規模法人は「財務戦略+承継対策」が基本軸
- 税務リスク・資金繰り・解約リスクを把握し、安易な契約は避ける
- 必ず 目的→商品選定→税務確認→契約後の見直し という流れで進めることが失敗防止につながる










