節税目的での法人化は得か?損益分岐点と成功の条件を徹底解説

節税目的で法人化する場合の損益分岐点を検証するイメージ。スーツ姿の男性がグラフとチェックリストを見ながら悩んでいる様子。
目次

法人化で節税できると聞いたけれど…本当に得になるのか?

「売上が増えてきたら法人化すれば節税できる」という話を耳にしたことがある方は多いでしょう。
確かに、法人化することで個人事業主とは異なる税率体系や経費計上の幅が広がるため、節税効果が得られるケースがあります。

しかし一方で、法人化には登記費用や社会保険料の負担増、事務負担の増加など、見落としがちなコストやデメリットも存在します。
節税目的だけで法人化したものの、「思ったより税金が減らなかった」「むしろ手取りが減った」という事例も少なくありません。

本記事では、節税目的で法人化する場合のメリット・デメリットを整理し、実際にどのくらいの所得規模から得になるのか、損益分岐点を具体的に検証します。


個人事業主と法人の税制の違いを理解する

法人化を検討する前に、まずは個人事業主と法人の税制の仕組みを理解することが重要です。

個人事業主の税制

  • 所得税は累進課税(課税所得が多いほど税率が上がる)
  • 所得税の税率は5%〜45%(復興特別所得税を含めると最高45.945%)
  • 住民税は一律10%
  • 社会保険は国民健康保険・国民年金(所得によって保険料変動)

法人の税制

  • 法人税率は原則23.2%(中小企業は年800万円以下の所得部分は15%)
  • 法人住民税・法人事業税を含めた実効税率は約30%前後
  • 社会保険は健康保険・厚生年金(会社と役員で折半)
  • 役員報酬は法人の経費にできる

ポイント
個人事業主は所得が増えると税率が急激に上がりますが、法人は一定の税率で課税されます。
このため、所得が高くなるほど法人化の節税効果が見えやすくなります。


節税目的だけの法人化に潜む落とし穴

節税効果ばかりに目を向けて法人化を決断すると、後から想定外の負担に直面する可能性があります。

1. 社会保険料の負担増

法人になると、役員報酬に対して健康保険と厚生年金の保険料が発生します。
これらは会社と役員が折半しますが、個人事業主時代よりも年間負担が大きくなるケースが多いです。

例:役員報酬が月30万円の場合

  • 健康保険料(東京都・協会けんぽ)約15,000円 × 2(会社・役員)
  • 厚生年金保険料 約27,000円 × 2(会社・役員)
    → 月額約84,000円、年間約100万円超の負担増となる可能性

2. 設立・維持コスト

  • 登記費用:約20万円(株式会社の場合)
  • 税理士顧問料:法人は決算や申告が複雑なため、顧問料が個人より高くなる傾向
  • 法人住民税均等割:赤字でも年間7万円(自治体によって異なる)

3. 事務負担・コンプライアンス

  • 決算書・法人税申告書の作成
  • 社会保険・労働保険の事務
  • 株主総会や議事録作成などの法的手続き

これらを外注する場合はコスト増、内製化する場合は手間が増えるという課題があります。

法人化が有利になる所得水準をシミュレーション

法人化による節税効果を検討する際には、「いつから得になるか」を数値で把握することが重要です。
ここでは、税金と社会保険料を合わせた可処分所得を基準に、所得水準ごとの比較を行います。

シミュレーション条件

  • 居住地:東京都
  • 扶養家族なし
  • 個人事業主:国民健康保険・国民年金に加入
  • 法人:協会けんぽ(東京支部)、厚生年金に加入、役員報酬設定あり
  • 顧問税理士費用などの法人維持コストは年間30万円と仮定
年間所得(利益)個人事業主 手取り法人化後 手取り差額(法人-個人)
500万円約340万円約320万円-20万円
800万円約510万円約520万円+10万円
1,000万円約620万円約660万円+40万円
1,500万円約850万円約930万円+80万円

分析

  • 年間所得が500〜700万円程度では、法人化すると社会保険料負担が増え、手取りが減るケースが多い
  • 年間所得が800万円を超えるあたりから法人化によるメリットが出やすい
  • 所得が高いほど、累進課税の影響で法人化の節税効果が拡大する

法人化による節税以外のメリット

節税は法人化の大きな目的のひとつですが、それ以外にも見逃せないメリットがあります。

1. 信用力の向上

  • 法人は登記情報が公開され、対外的な信用力が高まる
  • 大手企業との取引や融資審査で有利になる

2. 節税の選択肢が広がる

  • 役員報酬や退職金の支給による所得分散
  • 法人契約の生命保険や福利厚生制度の活用
  • 家族への給与支給(合理的であれば経費化可能)

3. 事業承継やM&Aが容易

  • 法人は事業資産を株式として譲渡できるため、事業承継や売却がスムーズ

法人化のデメリット(節税以外の視点)

節税以外にも、法人化に伴う負担や制約があります。

1. 社会保険加入の義務化

法人は1人会社でも社会保険加入が義務(業種・規模による例外あり)

2. 経営資金の自由度が下がる

法人の資金は会社のものであり、個人的な引き出しは貸付金扱いになり、税務上のリスクがある

3. 解散・清算時のコスト

法人を閉じる際には登記費用や専門家報酬がかかる

損益分岐点の計算方法と実例

法人化の判断では、「損益分岐点」を把握することが重要です。ここでいう損益分岐点とは、法人化した場合の可処分所得(手取り)が個人事業主と同等になる所得水準を指します。

計算の基本ステップ

  1. 個人事業主の税金・社会保険料を計算
    • 所得税・住民税・国民健康保険・国民年金
  2. 法人化後の税金・社会保険料を計算
    • 法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税
    • 役員報酬に対する所得税・住民税・社会保険料
  3. 法人維持コストを加算
    • 顧問税理士報酬、登記費用、その他事務費
  4. 手取りを比較して損益分岐点を特定

実例シミュレーション

条件

  • 所得控除は基礎控除のみ
  • 社会保険料率は東京基準
  • 法人維持費:年間30万円
年間利益個人事業主の手取り法人化後の手取り差額判定
600万円約410万円約400万円-10万円法人化不要
800万円約510万円約520万円+10万円ボーダーライン
1,000万円約620万円約660万円+40万円法人化有利
1,500万円約850万円約930万円+80万円法人化強く推奨

結論

  • 年間利益が800〜900万円を超えるあたりが損益分岐点となるケースが多い
  • ただし、扶養家族の有無や生命保険の活用などによっても結果は変わる

法人化を検討する際のチェックリスト

法人化を考えるときは、単に利益額だけで判断せず、以下の項目も確認しておきましょう。

1. 年間利益

  • 800万円以上を安定的に超えているか?

2. 将来の事業計画

  • 売上や利益の伸びが見込めるか?

3. 社会保険負担への対応

  • 社会保険料の増加に耐えられるか?

4. 家族の給与活用

  • 家族を役員や従業員として雇い、所得分散できるか?

5. 資金繰り

  • 法人化後も運転資金を安定して確保できるか?

6. 税務・会計体制

  • 法人決算や申告に対応できる体制があるか?

法人化後に使える節税テクニック

法人化によって可能になる節税方法は、個人事業主では使えないものが多くあります。代表的なものを整理すると以下の通りです。

1. 役員報酬の最適化

  • 役員報酬を設定することで、法人の利益を圧縮し法人税を節約できます。
  • 同時に役員個人の所得税も累進課税を考慮して調整可能。
  • ただし、期中変更は原則不可。年度開始時に慎重に設定する必要あり。

2. 家族への給与支給

  • 家族を役員や従業員にして給与を支給すると、所得分散効果で税負担が軽減。
  • 実際の業務従事と合理的な給与額が条件。

3. 福利厚生費の活用

  • 社員旅行、健康診断、社宅制度など、非課税で経費算入できる福利厚生制度が使える。
  • 社宅制度は特に節税効果が高く、役員社宅にも利用可能。

4. 退職金制度の活用

  • 役員退職金は退職所得控除が適用され、税率が優遇される。
  • 長期的に節税効果を得られるが、支給時の資金準備が必須。

5. 法人保険の利用

  • 長期平準定期保険や逓増定期保険を使った資金積立と節税。
  • ただし、2020年以降の税制改正により経費算入範囲が縮小しているため最新規定の確認が必要。

法人化で失敗しないための進め方

法人化は税金だけでなく社会保険や資金繰りにも影響するため、計画的に進めることが重要です。

ステップ1:事前シミュレーション

  • 個人事業主のままの場合と法人化した場合の手取り比較を実施。
  • 顧問税理士に依頼して複数パターンを試算。

ステップ2:設立タイミングの決定

  • 売上や利益が伸び始める年度の期首に法人化すると、役員報酬設定がスムーズ。
  • 決算月は資金繰りや繁忙期を考慮して設定。

ステップ3:資金繰り対策

  • 社会保険料や法人税の支払いに備え、3〜6か月分の固定費を準備
  • 融資枠の確保や法人クレジットカード作成も事前に行う。

ステップ4:設立後の税務・会計体制整備

  • クラウド会計ソフトの導入(freee、マネーフォワード等)
  • 毎月の試算表作成とキャッシュフロー管理
  • 節税施策の事前実行(期末直前では遅い場合あり)

まとめ

  • 法人化の損益分岐点は、利益800〜900万円付近が目安だが、状況によって異なる。
  • 法人化後は役員報酬や福利厚生制度などを活用し、節税効果を最大化できる。
  • 税金面だけでなく社会保険料や資金繰りへの影響も考慮することが不可欠。
  • 計画的にシミュレーションと準備を行い、適切なタイミングで法人化することが成功の鍵。

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