フリーランス保険は経費になる?税務署が見る境界線と判断基準

税務署員がフリーランスの保険と経費の境界線をチェックしているイラスト。看板に「保険」と「経費」の文字。
目次

フリーランスの保険と経費の関係を理解することの重要性

フリーランスとして活動していると、収入や働き方の自由度が高い一方で、会社員時代には意識しなかったリスク管理や税務管理も自分で行わなければなりません。特に「保険」に関しては、万が一の備えとして必要であると同時に、その保険料を経費として計上できるかどうかが節税に直結します。

しかし、この「保険料の経費化」には明確なルールがあり、場合によっては税務署から指摘を受ける可能性もあります。たとえば、生命保険や医療保険など個人的な要素が強い保険を全額経費にしてしまうと、経費性が否認され、追徴課税の対象になることも。
この記事では、フリーランスが加入する保険の種類ごとの経費扱いの可否や、税務署が注目するポイント、そして適切な保険と経費の境界線について徹底解説します。


なぜ税務署はフリーランスの保険経費を注視するのか

フリーランスや個人事業主の確定申告は、会社員の年末調整と比べると自己申告の要素が大きく、不正や誤認の余地もあります。そのため、税務署は以下のような理由から、保険に関する経費計上を重点的に確認する傾向があります。

  • 私的支出と事業支出の線引きがあいまいになりやすい
    保険は、生活上のリスクに備える性格が強く、事業との直接的な関係性を証明しづらいケースが多いです。
  • 金額が大きくなりやすい
    年間数十万円単位の支払いになることもあり、節税効果が大きいため、税務調査の対象になりやすいです。
  • 保険の種類ごとに経費性が異なる
    火災保険や賠償責任保険などは経費計上しやすい一方、生命保険や学資保険などは経費として認められません。

経費計上が認められる保険と認められない保険の代表例

保険の種類経費計上の可否理由
事業用自動車保険事業で使用する車両の維持に必要なため
火災保険(事務所用)事業資産を守るための保険
賠償責任保険取引先や第三者への損害賠償に備えるため
生命保険×(原則)個人の生活保障であり事業との直接性がないため
医療保険×(原則)私的な医療費の補填であり事業との直接性がないため
学資保険×教育資金目的で事業とは無関係

※一部の保険は条件付きで経費性が認められる場合があります(例:従業員向けの福利厚生目的)。


誤った経費計上が招くリスク

保険料の経費計上を誤ると、税務署から以下のような指摘やペナルティを受ける可能性があります。

  • 経費否認による所得税・住民税の追加納付
  • 延滞税や過少申告加算税の課税
  • 信用低下による取引先や金融機関からの評価低下

たとえば、年間50万円の保険料を経費に計上していたものが全額否認されると、その分の税金(所得税・住民税・事業税)が追加で発生し、さらに延滞税も加算されます。

経費として認められる保険の判断基準

経費性の有無は、税法上**「その支出が事業の遂行上必要かどうか」**で判断されます。具体的には、次の3つの視点で検討します。

1. 事業との直接的な関連性

  • 保険の目的が事業の運営や資産保護に直結しているかどうかが重要です。
  • 例:事務所の火災保険、業務用車両の自動車保険、製造業の生産設備保険など。

2. 支出の合理性

  • 保険料の額や内容が事業規模や必要性に照らして妥当であるかどうか。
  • たとえば、年商500万円の個人事業主が年間300万円の高額な保険に加入している場合、過大と判断されやすくなります。

3. 私的利用部分の除外

  • 個人利用と事業利用が混在している場合は、按分(あんぶん)計算が必要です。
  • 例:自宅兼事務所の火災保険 → 面積比や使用時間比で事業部分だけを経費計上。

経費性の判断を迷いやすい保険の例

保険の種類判断ポイント経費計上の可否(目安)
自宅兼事務所の火災保険面積割合で按分計算○(事業部分のみ)
生命保険(事業借入の返済保証目的)借入が事業用であり、返済資金確保のため△(条件次第)
団体信用生命保険(事業用ローン付帯)事業用資金借入に必須の場合
従業員向け医療保険福利厚生として全員加入
家族のみ加入の医療保険私的支出のため×

税務署が保険経費をチェックする際のポイント

税務調査において、税務署は以下のような観点で保険経費を確認します。

  1. 契約者・被保険者の確認
    • 契約者や保険金受取人が事業主本人や家族の場合、私的性格が強いと判断されやすい。
  2. 契約書・保険証券の目的
    • 保険の目的欄に「事務所用」「事業資産保護」など事業関連の記載があるか。
  3. 支払い証拠(領収書・口座引落記録)
    • 支払方法が事業用口座か個人口座かも重要。
  4. 按分計算の根拠
    • 自宅兼事務所の場合、按分比率の計算方法や根拠資料が求められる。
  5. 過去の申告との整合性
    • 前年と比べて保険料が急増していないか、種類が急に変わっていないか。

曖昧なケースはどうするべきか

判断が難しい場合は、税理士に事前相談することを強くおすすめします。
特に生命保険や医療保険のように「事業性」と「私的性格」が混在するものは、後から否認されるリスクが高いため、契約前に税務上の取扱いを確認することが重要です。

経費計上が認められた事例

事例1:事業専用車両の自動車保険

  • 概要:デザイン事務所を運営するフリーランスが、顧客訪問や資材運搬に使用する車両を事業専用として保有。
  • 契約内容:自動車保険の契約者・使用目的が「業務用」に設定されている。
  • 結果:全額を「車両費(損害保険料)」として経費計上し、税務署も承認。
  • ポイント:事業専用であることを車検証・契約書・走行記録で証明できた。

事例2:事務所用火災保険

  • 概要:自宅とは別に賃貸オフィスを借りているITフリーランス。
  • 契約内容:オフィス物件専用の火災保険に加入。
  • 結果:保険料全額を「地代家賃付随費用」として計上し、問題なく認められた。
  • ポイント:契約住所が事務所であり、私的利用部分がない。

事例3:従業員向け医療保険

  • 概要:従業員3名を雇用する飲食業の個人事業主。
  • 契約内容:全従業員が加入する団体医療保険。
  • 結果:全額を「福利厚生費」として経費計上。
  • ポイント:全員加入で私的性格がなく、福利厚生目的が明確。

経費計上が否認された事例

事例1:個人生命保険の全額計上

  • 概要:フリーランスライターが自身の死亡保障として加入した生命保険の保険料(年額30万円)を全額経費計上。
  • 結果:税務署から「生活保障目的」と判断され全額否認。
  • 理由:契約者・被保険者・受取人すべて本人や家族であり、事業との直接的関係がない。

事例2:自宅兼事務所の火災保険の全額計上

  • 概要:自宅の一室を事務所として利用するプログラマー。
  • 結果:全額経費計上を否認され、事務所面積割合(20%)のみが経費として認められた。
  • 理由:私的利用部分が大きく、按分計算が必要。

事例3:家族のみ加入の医療保険

  • 概要:配偶者と子どもの医療保険料を「福利厚生費」として計上。
  • 結果:全額否認。
  • 理由:家族は従業員ではなく、福利厚生の対象外。

認められる事例と否認される事例の違い

認められた事例は、事業目的が明確で、契約内容や利用状況が客観的に証明できるものです。
逆に否認された事例は、私的性格が強く、事業との直接的関連性が乏しいものです。


判定の目安となるチェックリスト

  • 契約目的は事業に直結しているか
  • 契約者・受取人は事業主以外(事業用)か
  • 私的利用分を除外しているか(按分計算)
  • 契約書や保険証券に事業用の記載があるか
  • 支払いは事業用口座から行っているか

正しい経費計上の手順

① 保険加入前に「事業関連性」を確認する

  • 保険の契約目的が事業運営に必要かどうかを事前にチェック
  • 契約書や申込書に「事業用」や「業務使用」の明記があるか確認
  • 個人の生活保障が目的の場合は経費ではなく「所得控除」で対応

② 保険契約書・保険証券の保管

  • 保険証券の写しは年度ごとに整理
  • 契約者・被保険者・受取人の欄が明確になっているか
  • 契約住所が事務所や店舗になっているかを確認

③ 支払い方法の一元化

  • 事業用口座・事業用クレジットカードから支払う
  • 私的口座からの支払いは経費として認められにくい

④ 按分計算の実施(自宅兼事務所など)

  • 事務所面積割合(㎡ベース)で按分
  • 水道光熱費や火災保険は利用時間・面積を基準に計算
  • 計算根拠をExcelなどで残しておくと税務署対応がスムーズ

⑤ 帳簿への正確な仕訳

  • 生命保険料 → 福利厚生費(従業員向け)または保険料(事業用)
  • 自動車保険料 → 車両費
  • 火災保険料(事業所) → 地代家賃付随費用

税務調査で疑われにくくするポイント

  • 契約目的・使用状況が分かる資料(契約書・写真・利用記録)を準備
  • 事業用の保険は事業用口座から支払う習慣をつける
  • 家族向け保険を「福利厚生費」に入れない
  • 按分計算の根拠を残す(図面・計算表)
  • 顧問税理士に事前相談し、判断根拠を共有する

まとめ

フリーランスが加入する保険は、事業との関連性が明確であれば経費計上が可能ですが、私的性格が強いものは税務署に否認されます。
重要なのは、契約時点から「事業目的を証明できる状態」を整えることです。


行動チェックリスト

  • 契約目的と事業の関係性を明確にしたか
  • 契約者・受取人が事業用になっているか
  • 支払いは事業用口座から行っているか
  • 按分計算が必要な場合は根拠を残したか
  • 税理士や専門家に事前確認したか

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