目次
法人保険選びに影響する3つの判断基準
法人が定期保険と終身保険のどちらを選ぶべきか判断する際は、次の3つの軸で検討するのが有効です。
1. 保障期間の必要性
- 短期的なリスク対応
例:経営者の在任期間中だけの保障や、借入返済期間中の保障 - 長期的なリスク対応
例:経営者が退任後も続く事業承継や遺族保障、永続的な納税資金の確保
2. 資金負担とキャッシュフロー
- 定期保険は低コストで高額保障が可能だが、資産として残らない
- 終身保険は資産価値があるが、短期的な資金負担は大きい
3. 税務メリットと将来の返戻金活用
- 定期保険の中には保険料全額を損金算入できる設計があり、当期の利益圧縮に有効
- 終身保険は資産計上が必要になるが、将来的な解約返戻金を事業承継や設備投資に活用可能
定期保険が法人向けに適するケース
一時的な高額保障が必要な場合
経営者や役員の急逝リスクに備える期間が明確な場合、定期保険は効率的です。
例:大口借入金の返済期間中や大型プロジェクトの遂行期間など。
損金算入による節税を重視する場合
保険料を経費として計上できることで、法人税の節税効果が期待できます。
ただし、2020年以降の税制改正で一部の商品は損金算入割合が制限されているため、契約前に最新情報の確認が必須です。
終身保険が法人向けに適するケース
事業承継や相続対策が目的の場合
経営者の死亡時に発生する相続税や株式評価額の納税資金を長期的に確保できます。
終身保険は一生涯の保障を持ち続けられるため、後継者への資金移転に有効です。
資産形成を兼ねたい場合
長期間の積立効果によって解約返戻金が増加し、実質的な内部留保の一部として利用できます。
景気変動や緊急時の資金需要に備える手段としても有効です。
ハイブリッド型活用という選択肢
実務上は「定期保険」と「終身保険」を組み合わせて契約する法人も多く見られます。
例えば以下のようなパターンです。
用途 | 商品タイプ | ポイント |
---|---|---|
在任期間中の高額保障 | 定期保険 | 低コストで保障額を確保 |
永続的な事業承継資金 | 終身保険 | 解約返戻金と一生涯保障 |
中期的な資金準備 | 逓増定期や長期平準定期 | 保険期間中に返戻率が高くなる |
このように複数商品を戦略的に組み合わせることで、保障と資産形成の両立が可能になります。
定期保険を使った短期集中型の事例
事例1:5年以内に完済予定の借入金返済リスク対策
- 背景
製造業A社は新工場建設のために1億円の借入を行い、返済期間は5年。
経営者に万一があれば返済が困難になるため、その期間限定で高額の死亡保障を確保する必要があった。 - 契約内容
保険種類:5年定期保険
保険金額:1億円
年間保険料:約180万円(全額損金算入可能な商品) - 効果
経営者が在任中に万一の場合、保険金で借入を一括返済可能。
返済完了後は契約終了とすることで保険料負担をゼロに。
ポイント:返済完了後に保障が不要になるケースでは、定期保険は無駄が少ない。
終身保険を使った長期資産形成型の事例
事例2:事業承継時の相続税資金対策
- 背景
小売業B社は後継者への株式承継を予定。経営者の持株評価額は2億円超で、将来の相続税納税資金が課題。 - 契約内容
保険種類:終身保険(法人契約、経営者死亡時に保険金を法人が受け取る設計)
保険金額:1億円
年間保険料:約400万円(資産計上) - 効果
経営者死亡時に法人が保険金を受け取り、その資金を後継者への株式買取や納税資金に充当可能。
途中で資金が必要になった場合は解約返戻金を利用できる。
ポイント:長期視点での資金準備や資産保全に強い。
定期と終身を組み合わせたハイブリッド事例
事例3:保障と資産形成のバランス確保
- 背景
建設業C社は経営者(60歳)が退任するまでの間は借入返済と事業継続保障が必要だが、その後は事業承継資金を確保したい。 - 契約内容
- 10年定期保険:保険金額 5000万円(借入返済対策)
- 終身保険:保険金額 3000万円(承継資金対策) - 年間保険料
合計約350万円(定期は損金算入、終身は資産計上) - 効果
短期的な借入返済保障と、長期的な承継資金の確保を同時に実現。
数値シミュレーション例(簡易モデル)
契約タイプ | 保険期間 | 保険金額 | 年間保険料 | 10年後の解約返戻金 | 損金算入割合 |
---|---|---|---|---|---|
定期保険(全損) | 10年 | 5000万円 | 90万円 | 0円 | 100% |
終身保険(資産計上) | 終身 | 3000万円 | 260万円 | 約2200万円 | 0%(資産計上) |
※数値は概算例であり、実際の商品や加入年齢により異なります。
法人が定期保険・終身保険を選ぶ際の行動ステップ
1. 会社の保障ニーズを棚卸しする
- 借入金の有無と返済期間
- 事業承継や相続税の発生可能性
- キーマンの在任期間と後継者の有無
- 既存の保険契約内容と保障額の不足分
📌 ポイント
「短期的な借入返済対策」と「長期的な資産形成・承継対策」を分けて考えると判断しやすい。
2. 保険の目的を明確にする
- 定期保険向き:短期の借入返済、期間限定のリスク保障
- 終身保険向き:事業承継資金、相続税資金、長期的な資産保全
3. 税務上の取り扱いを確認する
- 定期保険(全損型・1/2損金型)
- 終身保険(資産計上)
- 解約時・保険金受取時の法人税課税
💡 税理士への相談推奨
法人保険の税務処理は改正が多く、誤った処理は追徴課税のリスクあり。
4. 複数商品を比較検討する
- 保険料と保障額のバランス
- 解約返戻率の推移
- 保険会社の信用力
5. 専門家とシミュレーションを行う
- 5年・10年・15年後のキャッシュフロー試算
- 保障額の減額・増額シナリオ
- 事業承継時の資金需要との一致度
6. 契約後も定期的に見直す
- 会社の成長や事業構造の変化に合わせて保障額・種類を調整
- 税制改正による損金算入ルールの変更対応
チェックリスト(簡易版)
項目 | 定期保険 | 終身保険 |
---|---|---|
契約目的 | 短期保障 | 長期保障・資産形成 |
損金算入 | 全損型あり | なし(資産計上) |
保険料 | 安い | 高い |
解約返戻金 | なし | あり |
主な用途 | 借入返済保障 | 事業承継・相続税対策 |
まとめ
- 短期リスク重視なら定期保険
- 長期資産形成・承継なら終身保険
- 両者の組み合わせでバランスを取る方法も有効
- 税制や事業計画を踏まえた専門家とのシミュレーションが必須