利益が出るのは喜ばしいが、税金の負担は重くなる?
事業を続けていると、「思ったよりも利益が出た」「売上が好調で黒字になった」という状況に出会うことがあります。これはもちろん嬉しいことですが、利益が出た分だけ税金も増えるという現実を忘れてはいけません。
特にフリーランスや中小企業経営者にとって、決算や確定申告の時期になると、
- 予想以上の納税額に驚く
- 慌てて対策を練るが、時間が足りない
- もっと早く動けばよかったと後悔…
こうしたケースは非常に多く見られます。
そこで重要なのが、**「利益が出たらすぐに取り組むべき節税対策」**を知り、実行することです。
「節税」は決算直前に慌ててやるものではない
経営者や個人事業主の間でよくある誤解の一つが、「節税対策は年度末(12月や3月)にやればいい」という考え方です。
しかし、実際には以下のような問題があります。
- 時間が足りず、有効な対策が限られる
- 無理に支出を増やして、本末転倒な投資をしてしまう
- 保険や共済に慌てて加入することで、資金繰りに悪影響が出る
- 税理士との打ち合わせが間に合わない
つまり、利益が出た「その時」に考え始めないと間に合わないのが節税対策です。
利益が出たら「即座に節税対策を検討する」のが鉄則
利益が出た場合、次のような視点で早期に節税対策を考えるべきです。
- 必要な支出を前倒しする(設備投資、広告費など)
- 将来の支出を前倒しできる制度を活用する(共済、保険)
- 法人化や決算月変更など、事業構造そのものを見直す
特に中小企業や個人事業主には、
- 小規模企業共済や倒産防止共済
- 所得補償保険や長期平準定期保険
- 青色申告特別控除や家事按分
- 特別償却・即時償却の制度活用
など、合法的に税負担を軽減できる制度や方法が多数あります。
節税は「ルールの中での正攻法」。脱税とは異なり、正しい知識と計画で利益を最大化するための重要な手段です。
なぜ今すぐ節税を考えるべきなのか?節税の基本構造とタイミング
節税には「準備期間」と「実行タイミング」がある
節税と聞くと、「年度末に駆け込みで何かやればいい」と思いがちですが、本当に効果がある節税策ほど“今すぐ”始める必要があるのが実情です。
節税の3つの基本構造
- 支出型節税(支払って経費化)
- 例:備品購入、広告宣伝費、業務委託費など
- 即効性あり。キャッシュアウトが前提。
- 繰延型節税(利益を翌期以降にずらす)
- 例:倒産防止共済、小規模企業共済、保険加入
- 節税+将来の資金準備が可能。年度内の加入・支払いが必要。
- 構造型節税(事業形態や仕組みの見直し)
- 例:法人化、決算期変更、家族に給与支給など
- 中長期的に効果あり。計画と実行まで時間がかかる。
どの節税も「利益が出てからでは遅い」のではなく、「利益が出たと気づいた瞬間」が最も効果的なタイミングです。
タイミング別に見る節税の実行イメージ
タイミング | 実行できる対策 | 特徴 |
---|---|---|
年度初め〜中盤 | 共済加入、保険設計、事業構造見直し | 時間的余裕があり、最も効果的 |
決算3ヶ月前 | 小規模企業共済・経営セーフティ共済加入、支出の前倒し | 実行可能だが選択肢は限られる |
決算直前 | 備品購入、広告出稿など一時的な支出 | 即効性はあるが“無駄遣い”注意 |
決算後〜確定申告直前 | 記帳整理、家事按分、青色申告控除対策 | 小粒の節税しかできない場合が多い |
節税は「節約」とは違う
誤解されやすい点として、**節税=経費を増やすこと=節約に反するのでは?**という考えがあります。
しかし実際には、
- 「税金」という回収不可能なコストをいかに抑えるか
- 「将来のために使えるお金」をどう確保するか
という点で、節税はむしろ賢いキャッシュマネジメントです。
たとえば、節税目的で加入した共済や保険は、将来の退職金や非常時の資金になります。
つまり、節税しながら資産形成することも可能なのです。
利益が出た時に有効な節税対策10選
ここでは、実際に利益が出たタイミングで「今すぐ実行できる」節税策を10個、個人・法人別に整理して紹介します。
法人向けの節税対策(中小企業向け)
① 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済)
- 【内容】取引先の倒産に備える制度。支払った掛金は全額損金算入可(上限:月20万円・年240万円)。
- 【節税効果】最大240万円の利益圧縮が即可能。
- 【注意点】加入には審査と時間が必要。早めの対応を。
② 小規模企業共済
- 【内容】役員の退職金準備制度。個人の所得控除扱い。
- 【節税効果】最大年84万円を控除できる。
- 【注意点】法人ではなく役員個人が契約者となる。
③ 法人保険(逓増定期保険・長期平準定期保険など)
- 【内容】保険を活用して資金を貯めつつ一部損金算入。
- 【節税効果】支払保険料の一部損金算入で節税。
- 【注意点】2025年現在、税制改正の影響を強く受ける分野。返戻率等で損金割合が異なる。
④ 決算賞与の活用
- 【内容】決算月に賞与を支給し、条件を満たせば損金算入。
- 【節税効果】即効性あり。役員ではなく従業員に限定。
- 【注意点】支給要件を満たさないと損金算入できないため注意。
⑤ 固定資産の購入と一括償却
- 【内容】30万円未満の資産であれば全額一括償却可能。
- 【節税効果】即年度での経費化が可能。
- 【注意点】年度内に「取得・使用開始」まで済ませる必要あり。
フリーランス・個人事業主向けの節税対策
⑥ 青色申告特別控除(65万円 or 10万円)
- 【内容】正規の帳簿付けとe-Tax提出で65万円控除。
- 【節税効果】控除額が大きいため節税効果は絶大。
- 【注意点】期限までに申請・提出する必要がある。
⑦ 自宅兼事務所の家事按分(家賃・光熱費・通信費等)
- 【内容】自宅の一部を事業利用している場合、家賃等を按分して経費化。
- 【節税効果】意外と大きな額になる。
- 【注意点】使用面積・時間の根拠が必要。根拠資料を保存しておく。
⑧ 事業用備品・経費の前倒し支出
- 【内容】翌期予定の支出を年内に前倒して実行。
- 【節税効果】支出分を即年度の経費に。
- 【注意点】「必要性」と「使用実態」の説明責任がある。
⑨ 国民年金基金・iDeCoの活用
- 【内容】掛金が全額所得控除となる。
- 【節税効果】節税と老後資金準備の一石二鳥。
- 【注意点】60歳まで引き出せない点に注意。
⑩ 家族への給与支給(専従者給与)
- 【内容】配偶者や子供を事業に従事させて給与支給。
- 【節税効果】所得分散により累進課税の軽減が可能。
- 【注意点】就労実態と給与水準が妥当である必要あり。
利益が出たらすぐに動く!節税を成功させるためのステップ
利益が出てからの時間は限られています。節税の「効果」を最大化するには、以下のような具体的なアクションが重要です。
ステップ1:利益の見込みを正確に把握する
- 決算月の1〜2か月前に、会計ソフトや税理士と連携して着地予想を算出しましょう。
- 利益が出そうなタイミングを「早期に」認識することで、準備時間を確保できます。
ステップ2:実行可能な節税策を一覧化・優先順位付け
- 使える制度(共済・保険・備品購入・賞与など)をリスト化。
- 即効性、節税額、実行の難易度で優先順位をつけておくと効果的です。
節税策 | 節税額 | 即効性 | 実行のしやすさ |
---|---|---|---|
倒産防止共済 | 高い | 高い | 中 |
固定資産購入 | 中 | 高い | 高 |
決算賞与 | 中 | 高い | 中 |
保険の加入 | 中〜高 | 中 | 低(要審査) |
ステップ3:専門家に相談しながら最終判断を
- 誤った判断は「税務調査」や「否認リスク」を招きます。
- 節税は「合法」の範囲でやることが大前提。顧問税理士や社労士と相談しながら慎重に進めましょう。
ステップ4:将来も見据えて制度を継続利用する
- 単年度の節税だけでなく、複数年を見据えた中長期の設計も必要です。
- 保険や共済などは「出口戦略」まで考えるのが大切です。
節税は“攻めの経営”の一歩
利益が出たときこそ、経営者の手腕が問われます。
税金は払うべきものですが、「必要以上に払う」必要はありません。
節税対策は単なる「支出の先送り」ではなく、
- 財務体質の改善
- キャッシュフローの強化
- 将来の資金設計
といった経営改善にもつながります。
事前準備と実行力が鍵となりますので、今期の決算前に、ぜひ本記事を活用しながら行動に移してください。